- HOME
- コラム
- Superpower Satire (USA)
- 米保守派の大スター、ラッシュ・リンボーの負の遺産(…
パックンの風刺画コラム Superpower Satire (USA)
米保守派の大スター、ラッシュ・リンボーの負の遺産(パックン)
What He Left Behind / (c)2021 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION
<1988年から30年以上にわたって全国放送で保守派の怒りや憎しみをあおり、1000万人超のリスナーに行動を呼び掛けた>
日本で知られていない、最もアメリカで影響力を持っている超有名人は誰だと思う? あっ、知られていないから、答えようがないか......。正解はラジオ番組司会者で保守派のスーパースター、ラッシュ・リンボー。
昔、政治系メディアは基本的にバランスの取れた、味気ないものだった。今は、口に合う人は大喜びし、合わない人は吐き気がするほど、辛くて濃厚なものになった。何が変わったかというと、反対意見も伝えることを義務付けた「公平原則」が1980年代のレーガン政権下で廃止されたのだ。つまり、不公平な、偏りっぱなしの番組内容が許されるようになった。
そのチャンスを最初期につかんだ「調理人」が2月17日に死去したリンボー。88年から30年以上にわたって平日の3時間の間、全国放送で保守派の怒りや憎しみをあおり、1000万人超のリスナーに行動を呼び掛けた。
共和党は94年の中間選挙で歴史的な勝利を記録したとき、リンボーのおかげだと彼を「名誉議員」にした。昨年トランプ前大統領からは大統領自由勲章を授与された。1個でもメダル「ラッシュ」だ!
アメリカで pallbearer(ひつぎを担ぐ人)を務めるのは、故人が生前、お世話になった身内。「同性愛者が背を向けたら、それは(セックスの)お誘いだ」「フェミニズムはかわいくない女性が社会へアクセスできるよう作られた」「犯罪者の似顔絵は全部(黒人運動家の)ジェシー・ジャクソンにそっくり」などの「迷言」で知られるリンボーが遺したのは bigotry(偏見)、misogyny(女性蔑視)、hate(ヘイト)、racism(人種差別)だと、風刺画は指摘している。
遺さなかったのは、科学や真実へのこだわり。それらはとっくに葬られた。「ゴリラの存在から進化論が疑われる」「ハリケーンは近年上陸していないから、地球温暖化論は破綻した」「新型コロナはただの風邪」などとしばしば主張した。でも否定しても事実は変わらない。「たばこは健康を害さない」と主張した葉巻大好きなリンボーの死因は、肺癌だった。
真実より視聴率、議論より娯楽、国より放送局と、重心がずれた今の政治メディアの生みの親は安らかに眠るかもしれないが、彼が遺したアメリカはちっとも安らかではない。
【ポイント】
Rush Limbaugh
聴取者参加型の『ラッシュ・リンボー・ショー』の司会者として、アメリカの保守主義を牽引。トランプなど共和党大統領も在任中に同番組にたびたび出演した。
Fairness doctrine
公平原則。放送の公平性を保つため、米連邦通信委員会がテレビとラジオに対して1949年に導入した。言論の自由を妨げているとして87年に廃止された。