コラム

大統領候補よ、花粉症を語れ!

2024年09月12日(木)13時42分
スギ花粉

患者にとっては、スギ花粉は税制や外交、犯罪対策より深刻な問題? TAGSTOCK1/ISTOCK

<選挙の立候補者たちが花粉症を政策課題として十分に重んじていない現状は不可解と言うほかない>

写真判定レベルの大接戦が予想される11月のアメリカ大統領選では、一見すると極めて些細な要素が勝敗を左右しかねない。直近の2回の大統領選でカギを握ったのは、一部の激戦州の10万人に満たない有権者の投票行動だった。その点を考えると、「花粉症との戦い」を公約に掲げる候補者が登場してもいいはずだ。

実はアメリカでも、有権者の4人に1人がこの厄介なアレルギー症状に苦しんでいる。しかも、気候変動の影響により、患者の数は増加の一途をたどると、大半の科学者は確信している。花粉症シーズンは春~夏で、大統領選の投票日とは重ならないが、この症状に苦しんでいる人たちにとっては、税制や外交、犯罪対策といった定番の政治課題よりはるかaに深刻な問題に感じられても不思議でない。


アメリカでは、カンザス州ウィチタが花粉症患者にとって最悪な場所であり、バージニア州バージニアビーチ、サウスカロライナ州グリーンビル、テキサス州ダラス、オクラホマ州オクラホマシティー、バージニア州リッチモンドなどが続く。

無視できない花粉症格差

国を問わず、21世紀の政治における重要テーマの1つは格差だ。実は、花粉症をめぐっても格差が存在している。

私はドイツの大学でも教えているのだが、ドイツでは花粉症患者の割合がアメリカよりかなり小さく、成人の10人に1人程度にとどまっている。この割合は、アメリカでは前述のように4人に1人、イギリスでは3人に1人。日本では4~5割くらいだ。一方、私が暮らしていたロシアでは、20人に1人にすぎない。

日本では、花粉症シーズンの最盛期には労働者の生産性の低下により1日当たり10億ドルを優に上回る経済損失が生じていて、1年間の医療費支出も25億ドル以上に上るという。世界中の国々で、花粉症患者の数は増え続けていて、今後もさらに増加すると予測されている。2050年には、ヨーロッパの人口の半分近くが深刻なアレルギー症状に苦しむようになるという推計もある。

花粉症によるダメージを大きく増幅させているのが大気汚染と気候変動だ。この2つの要素は、空気中に飛散する花粉の量を増やす上に、花粉によるアレルギー反応を強める可能性があるのだ。

この点に関して見落とせないのは、大気汚染と気候変動の影響が都市部でとりわけ大きいことだ。都市と地方の政治的断絶が深まっている時代には、花粉症問題の影響をどれくらい受けるかが政党によって大きく変わってくる可能性もある。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ空軍が発表 2人負

ビジネス

大手IT企業のデジタル決済サービス監督へ、米当局が

ビジネス

独VW、リストラ策巡り3回目の労使交渉 合意なけれ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家、9時〜23時勤務を当然と語り批判殺到
  • 4
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 8
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 9
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story