コラム

もう家の中に廊下は要らない。コロナ禍で進化するマンションの間取り

2022年07月26日(火)11時14分

ほかに「センターリビングの間取り」というべき間取りの住戸は、3LDKを基本としながら、バルコニーに面して設置されがちなリビングを住戸の中央に配置している。この間取りでも、室内廊下をリビング内に採り入れている。

sakurai20220725112506.jpg
「ルネ西宮甲子園」につくられた提案型モデルルームのひとつ。住戸の中央部分にリビングがあるプランだ。このリビングが室内廊下を兼ねている。筆者撮影

以上4つの間取りは、室内廊下を設けなかったり、室内廊下を設けても、そのスペースが生活空間に取り込まれているのが特徴。廊下を通路だけにしないところが新しい。

一般的に、マンションの室内廊下は2〜3畳分の広さとなりがち。そのスペースをリビングなどに取り込めば、個性的な間取りが完成するし、住戸内の生活スペースが広がる、という利点も生じる。

しかし、室内廊下をなくして不都合はないのか、という疑問も湧く。というのも、マンションの室内廊下は、これまで重要な役割を果たしていたからだ。

じつは、室内廊下は、日本のマンションを進化させた立役者だった

日本のマンションが広まったのは、昭和30年代から。最初は、鉄筋コンクリート造でも中身は和風だった。

畳の部屋が3つと板の間のダイニングが1つ。計4つの部屋が襖で仕切られ、上から見ると、居室が「田」の字のように配置された。

この間取りは、昔から日本の民家で見られた形式。襖で4つの部屋を区切り、襖を取り外せば大広間が出現するという便利な間取りである。

昭和30年代のマンションも襖1枚で居間、主寝室、子供部屋を分けるタイプが主流だった。が、これは、プライバシーが守られず、居間の声が勉強の邪魔になるなど、不満の声が多かった。

そこで登場したのが、生活空間を分ける工夫。リビングと寝室を離し、さらに、主寝室と子供部屋も離してプライベートを大切にし、音の問題が少なくなる間取りである。

その際に、重要な役目を果たしたのが、室内廊下だ。

玄関からリビングダイニングまで室内廊下を通し、廊下を挟んで、主寝室と子供部屋を配置。これで、リビング・主寝室・子供部屋が密着せず、プライバシーを保ちやすくなる。

室内廊下によって、マンションは各部屋の独立性を高めたわけだ。

定評のある「田の字プラン」から個性的間取りへ

室内廊下を設けることで、日本のマンションは進化した。その評価が高かったため、以後のマンションは同じような間取りになってしまった。

プロフィール

櫻井幸雄

年間200件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。・公式サイト ・書籍/物販サイト

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

高市政権の経済対策「柱だて」追加へ、新たに予備費計

ビジネス

アングル:長期金利1.8%視野、「責任ある積極財政

ビジネス

米SEC、仮想通貨業界を重点監督対象とせず

ビジネス

ビットコイン9万ドル割れ、リスク志向後退 機関投資
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 7
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story