コラム

未婚女性やバーニングマン......決して一線は越えない「普通の人」たち

2020年03月13日(金)12時10分

「Whiteout」もリトフスキーの才能を表す代表作だ。毎年ネバダ州の砂漠地帯で開催される「バーニングマン」という、原始的あるいは異次元空間的な社会的イベントがモチーフ。そこに3年ほど通って作品にしたものである。

通常、レンズについては、それほど画角が広過ぎないワイド、または標準ぎみのレンズを好むリトフスキーだが、このバーニングマン・シリーズでは比較的望遠ぎみのレンズを多用している。本来であればメインの被写体となる人物が、イメージの中ではむしろ小さく扱われているのである。

だがそれが、バーニングマンのイベントを扱った他の多くの写真家たちと、作品において大きな違いを生み出している。砂漠に吹き荒れる風と砂、それによって覆いつくされたイベント会場、そのざらつき――そうしたものが、ある種の生き物のように前面に押し出されてくるからだ。また何よりも、バーニングマン参加者たちのインターアクション(交流)のひとつの本質があぶり出されるのである。

実のところ、「Bachelorette」シリーズにしろ「Whiteout」シリーズにしろ、リトフスキーのサブカルチャー・シリーズの被写体たちは「普通の人」たちである。極めてアンダーグラウンド的だとしても、「生」を破壊してしまうような一線は決して越えない。その場を離れれば、戻るべき生活、仕事や家庭が存在している。

だが、こうした「普通の人」に潜む相反する世界観こそが、そしてその社会学的心理性こそが、リトフスキーが追い求めるものだ。それを通し、現代の人々の、とりわけリトフスキーと同じ女性のアイデンティティを探求しようとしているのである。

今回紹介したInstagramフォトグラファー:
Dina Litovsky @dina_litovsky

【お知らせ】
今回でこの「Instagramフォトグラファーズ」は、連載100回を迎えました。非常に光栄なのですが、もう1つお知らせがあります。ウェブ編集部の再編などにより、このブログは今回が最後になってしまいました。やはり寂しい限りです。長いあいだ応援していただいた読者のみなさま、およびNewsweek Japanのスタッフの方々、ありがとうございます。この場を借りてお礼を申し上げます。

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story