コラム

重たいEV時代にはそぐわない日本の1100キロ基準

2024年06月26日(水)11時30分

大容量バッテリーを搭載しているEVは従来の乗用車より車体が重い CFOTO/Sipa USA/REUTERS

<車体の重いEVが急速に普及する時代に、日本の基準は対応できていないのでは>

日本の各自動車メーカーが日本で型式指定を受ける際に提出したデータが「不正」だった問題が連日報道されています。このニュースについては、現時点では、基準より厳しい試験を行ったので、安全性には問題はないというメーカー側と、あくまで日本の法令に照らせば違法だという国交省が「綱引き」をしている格好です。

双方ともに、公式の説明はしていませんが、このまま推移すると、国交省は1年から1年半をかけて「現行車の安全性の確認試験」を行い、その結果として、改めて罰則を決めるというような、時間のかかる話になりそうです。これは大変なことだと思います。1年半という長期にわたって、メーカーが暗に主張している「より厳しい試験だからいいじゃないか」「監督官庁は形式主義だ」という考え方と、あくまで法令に則って規制をする国交省が、長い時間をかけて対立するようでは、法の信頼性が揺らぐことになるからです。


今回のメーカーと国交省の議論ですが、一つ、その中にある「規定と異なる台車重量」というのがとても気になっています。この問題は、トヨタが衝突試験の際に、日本基準の1100キロより重たい1800キロの評価用台車を使用したという問題です。後方から台車を衝突させて、その際に燃料漏れなどを起こさないかどうかを確認するという試験における「ぶつける台車」の重量が問題になっている点です。

トヨタの主張によれば、1800キロの台車をぶつけた場合には、より大きな衝撃で評価したわけで、当然、1800キロのもののほうが、より安全性が確認できたはず、そうした見解だと理解できます。ですが、日本のルールには違反したことになります。

EV時代の基準はどうするべき?

この問題ですが、私もそうなのですが、第一印象としては北米など「もっと大きなクルマが走っている市場」を前提にして試験がされたというイメージでとらえた方は多かったのではないかと思います。大型のSUVやピックアップトラック、あるいは巨大なエンジンを積んだいわゆる「アメ車」など、重たいクルマの走っている欧米向けのデータがあり、これをクルマの平均的なサイズが小さい日本に流用したのは、安易な判断、そんな印象です。

実際はそうかも知れません。また、そのために国交省は法の権威を守るために強硬であるとも考えられます。

けれども、この問題に関しては全く別の見方もできます。それはEV(電気自動車)が本格的に普及している時代という問題です。

現在、欧米でも中国でも、急速にEV車の比率が高まっています。日本でも徐々に普及が始まっています。そして、EVというのは車重が重いのです。大容量の電池を搭載しているので重いのです。具体的には、

▽テスラ「モデル3」「モデルS」の場合は、1600~2200キロ
▽テスラの高級版「モデルX」の場合は2350~2450キロ
▽トヨタ「bz4x」(スバルの「ソルテラ」とほぼ同一)の場合は空の重量で1900キロ

となっています。世界中に廉価な販売攻勢をかけている中国のBYDもそうで、「ダイナスティ」という車種は2360~2560キロと、やはり重いのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米高官、中国レアアース規制を批判 信頼できない供給

ビジネス

AI増強へ400億ドルで企業買収、エヌビディア参画

ワールド

米韓通商協議「最終段階」、10日以内に発表の見通し

ビジネス

日銀が適切な政策進めれば、円はふさわしい水準に=米
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に共通する特徴、絶対にしない「15の法則」とは?
  • 4
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 10
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story