コラム

『はじめてのおつかい』がアメリカで巻き起こした大論争

2022年04月20日(水)13時30分

子どもを一人でお使いに出すことは、現在のアメリカでは「非現実的」 damicudic/iStock.

<保護責任が厳しく問われるアメリカでは、子どもを一人でお使いに出すことは「非常識極まりない」はずだが......>

日本のNTV系列が放送している長寿番組『はじめてのおつかい』の中から、諸条件に合致したエピソードの放映権がNetflixに売却され、この4月1日から「Old Enough」(「(単独行動をするには)十分に大きい」)というタイトルで世界各国で視聴されるようになりました。一番幼い場合は3歳児未満という幼児が、親に頼まれて「一人でお使い」に行くというリアリティー・ショーですが、アメリカでは大変な話題になっています。

アメリカでは、州によって若干の違いはありますが、基本的に13歳未満の子供に対しては保護者の監視が義務付けられています。ですから幼児に一人で街路を歩かせていることが判明した場合には、その幼児は即座に保護され、保護者は逮捕されるばかりか、そのような「危険な状態を見て見ぬふりをした」場合には目撃者も刑事責任を問われる場合があります。保護者の場合、再犯など悪質と判断されると最悪の場合には親権を失う危険もあります。

この『はじめてのおつかい』は、そんなアメリカの「常識」とは真っ向から対立するコンセプトで作られており、普通に考えるとヒットする可能性は少なかったはずです。そうなのですが、Netflixは見事にある種の「鉱脈」を掘り当てたようです。一体アメリカの視聴者はどうして、アメリカでは「非常識極まりない」この番組に吸い寄せられたのか、まずその手がかりは同番組をめぐる現在進行形の「論争」にあると思います。

米社会へのアンチテーゼも

さまざまなメディアが、さまざまな切り口で論争を取り上げています。

まず、大きな話題になったのは、「ニューヨーク・タイムス」(電子版)が4月16日に掲載したオピニオン・ライターのジェシカ・グロウス氏のコラムです。

グロウス氏の論点は、現状ではアメリカで幼児に「はじめてのおつかい」をさせるのは法律面でも、また安全の面でも非現実的だとした上で、アメリカの家庭教育が「子供を独り立ちさせない」傾向があるという問題提起をしています。つまり、社会的な適応力など、子どもの持っているさまざまな能力を引き出して、自立させるようなアプローチがアメリカでも検討されるべきだというのです

一方、NBCテレビは、朝の情報番組『トゥデイ』でこの番組を大きく取り上げています。現時点では、番組のMCであるキャスターのサベナ・ガスリーに「危険だから絶対ダメ」という反対派の論陣を張らせる一方で、「アメリカで『はじめてのおつかい』は成立するか」というアンケートを「イエス」と「ノー」の間で振れる「メーター」で表示する仕掛けを導入。多角的な議論に発展させようという仕掛けです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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