コラム

『はじめてのおつかい』がアメリカで巻き起こした大論争

2022年04月20日(水)13時30分

その他にも、交通関係のポータルサイト「ストリートブログUSA」では、交通環境の違いに着目。軽四が多く平均時速の遅い日本のモータリゼーション環境は、アメリカより安全性が高いとか、アメリカには徒歩移動を可能にするインフラがないといった指摘をしながら、この『はじめてのおつかい』を論じています。

以上はほんの一部に過ぎません。ですが、とにかく「子どもの単独行動は違法」というアメリカ社会で、『はじめてのおつかい』がここまでヒットして、賛否両論を巻き起こしているのは不思議な現象です。その背景には、おそらく次の4つの要因が指摘できると思います。

1つは、コロナ禍とウクライナ情勢のニュースで疲弊したアメリカの大人たちにとって、日本の幼児の「可愛らしい健気な姿」が究極の「癒し」になっているという点です。

2つ目は、アメリカの現実としてはコロナ禍による社会の混乱の結果、都市部を中心に治安が極端に悪化しています。このアメリカの現実と日本の治安の良さを比較することで、あらためて「銃規制」への議論を提起したい、そんな政治的な動機もうっすらではありますが、感じられます。

日本ブームの一環でもある?

3つ目は、コロナ禍の中でテレワークが一般的となり、多くの家庭ではこの間、子供と向き合う時間が拡大しました。そんな中で、親たちには子どもの成長、自立といった問題を考えるチャンスがあったのだと思います。簡単に言えば、アメリカの子どもも「もう少し自立してくれれば」という願望が生まれたことが、番組に関する論争を勢い付かせているのだと思います。

4つ目は、日本ブームの一環ということです。コロナ禍の中で、アメリカでは日本への憧れがさらに膨張しています。『鬼滅の刃』、ラーメン人気、大谷翔平人気に佐々木朗希へのラブコール、近藤麻理恵さんの「片づけ」哲学に、シニア向けの生きがい論など、この2年で日本への「片想い」は強まるばかりです。これに「幼児が一人で買い物できる平和で安全な社会」というイメージが加わったわけです。

こうした傾向が続くと、ポストコロナの時代には、大勢のアメリカ人が日本に殺到することになるかもしれません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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