コラム

イートイン脱税問題、そもそも外食は贅沢なのか?

2019年11月05日(火)19時10分

コンビニは店内放送で脱税防止を呼び掛けているが…… structuresxx/iStock.

<コンビニの店内で飲食するイートインが外食扱いで10%の消費税率がかかるのは、そもそも外食が「贅沢」だと考え方がベースにあるが......>

消費税率アップに伴う軽減税率導入に関しては、新聞を軽減税率の対象にして「反対の論調を封じる」ことで新聞購読世代の世論を抑えたり、どう見てもムリをして進めた感じがしていました。一部には、将来的に税率をどんどん上げていく際には、やはり税率を区別する必要が出てくるので、今回はとにかく軽減税率という制度を導入するのが目的であり、政府としては大論争にしたくなかったという見方もあるようです。

それはともかく、問題はコンビニです。「イートイン」なら「外食扱いで10%」、「持ち帰り」なら「食料品の販売扱いで8%」という区別は、そもそも判別が難しいので、業界として財務省と相談して「自己申告制」にするというのは事前に決まっていたわけです。

その場合は、最近のトレンドである「他人がトクをするのが不快」とか、「他人の違法行為を摘発するのが自己実現になる」という種類のいわば「正義のクレーマー」対策が、店頭での負荷になる、そこがウィークポイントになると思っていました。

ところが、実際に制度がスタートしてみると、様子が違いました。店頭でのクレームについては現場の大きな負荷にはならなかった一方で、ネットを通じて「イートイン脱税」という「用語」が発明されて拡散してしまったのです。その結果として、「脱税という違法行為の元凶は、コンビニの本部にある」というイメージが広がり、本部がその「マイナスイメージ」に耐えられなくなるという事態になりました。

結果として、「正しい申告をするように」という店内放送を行う対策が出てきました。コンビニ店内に、録音された「脱税禁止メッセージ」がリピートされるというのは、不思議な雰囲気を醸し出すはずで、これもまた「コンビニ離れ」を加速させるのではないかという心配があります。

問題は、この「8%と10%」の差の前提にある考え方だと思います。それは「外食は贅沢だから高税率」という発想法です。現代の日本社会の場合、この考え方は相当に揺らいでいるのではないでしょうか?

例えば焼肉です。外食と内食と、どちらが贅沢でしょうか? 確かに高級焼肉店というのもありますが、霜降りの特上肉を買い、家族や友人を集めてホームパーティーをする場合と、チェーン店などの大衆焼肉店へ行く場合とでは、どう考えても前者の方が贅沢です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英、金融指標の規制見直し 業界負担を軽減

ワールド

韓国、ウォン安への警戒強める 企画財政相「必要なら

ワールド

米、台湾への新たな武器売却承認 ハイマースなど11

ワールド

マクロスコープ:意気込む高市氏を悩ませる「内憂外患
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story