コラム

即位礼のテレビ中継で見えた、皇室文化の多層的な発展

2019年10月23日(水)16時45分

今回の即位礼はテレビ中継で初めてその詳細が公開された Kazuhiro Nogi-Pool-REUTERS

<皇室文化をもっとオープンに公開して、今後どのように伝統を残していくか、あらためて議論しても良いのでは>

平成の即位礼は、昭和天皇の服喪明けを待って行われたこともあり、即位は1989年1月だったのですが、一連の即位の行事は1990年に入ってからスタートしています。正殿の儀、祝賀御列の儀、饗宴の儀は11月12日ですから、代替わりから1年10カ月後になっていました。

また、新憲法下では初めてということもあり、やや試行錯誤気味だったと記憶しています。さらに言えば、89年1月の即位の際は竹下内閣であったのが6月に退陣に追い込まれて宇野内閣となり、8月以降は海部内閣と、政権がクルクル変わって落ち着かない日々でした。これと並行してバブル崩壊が進行し、日本の経済社会は大きな転機を迎えたことも事実です。

その点で、今回の即位礼は譲位を契機としており、即位から約6カ月で即位礼というタイミングのスムースさがありますし、何よりも服喪からの即位ではないことから、即位から即位礼という一連の行事に、影がささないというのは良かったと思います。

さらに言えば、テレビが高精細化されて初めてのこの種の儀式となり、しかもカメラが儀式の奥まで入って伝えたというのは画期的でした。その結果として、この即位礼そのものが多くの異なった文化が層として積み重なってできているという、不思議なカルチャーだということも、良い意味で国内外に伝わったのではないでしょうか。

例えば、儀式の全体が和洋折衷であり、これは明治以降の日本が、欧米の文化を吸収しつつ変化させたり、伝統との融合を図ったりしたことの象徴と言えます。また、伝統的な部分についても、中国由来のもの(黄袍〔おうほう、黄色の上着〕など)、東アジアに共通のもの(雅楽など)などが何層にも折り重なっています。政治的にも、明治憲法下の絶対君主的なイメージの部分と、新憲法的なものとが融合していますし、とにかく多くの層が重なって全体が不思議な構造になっていると言えます。

そんな中で今回の一連の即位礼は、ほぼ完成形に近づいたという意見も出ているようです。そうなのかもしれませんが、せっかくこれだけのテレビ中継がされて関心が高まっている時期でもあり、今後へ向けて即位礼のあり方について自由な議論が行われてもいいのではないかと思います。

議論の1つは、神道行事です。この後、皇室行事として大嘗祭が行われるわけですが、この大嘗祭というのは世界のどこにでもある収穫祭的なものだと言える一方で、日本独自の稲作文化を象徴的に宗教化したものとも言えます。したがって、この大嘗祭に象徴される即位礼の全体は稲作文化を代表したものであって、それ以前の狩猟採集時代の文化、つまり縄文文化からオホーツク、アイヌ文化は代表していないという考え方があります。

仮にそうであれば、日本という国と文化を構成する中の非稲作文化の部分は、何らかの形で即位礼に取り込む必要もあるのかもしれません。その一方で、実は大嘗祭を中心とした皇室の神道行事には、縄文時代つまり稲作の入ってくる前の痕跡が残っているという説もあります。仮にそうであるのなら、行事には手を入れないかわりに、もっと行事自体を公開して幅広い研究に供することが必要なのかもしれません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏インフレは当面2%程度、金利は景気次第=ポ

ビジネス

ECB、動向次第で利下げや利上げに踏み切る=オース

ビジネス

ユーロ圏の成長・インフレリスク、依然大きいが均衡=

ビジネス

アングル:日銀、追加利上げへ慎重に時機探る 為替次
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 10
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story