コラム

戦争による膨大な死の記憶とどう向き合ったらいいか、8月15日に考える

2019年08月15日(木)17時30分

この種の対立は、日本だけに存在するのではありません。敗戦に終わった戦争の場合は、一般的にこうした対立が起きがちです。例えば、ベトナム戦争の評価に関するアメリカ国内の対立がいい例です。

ただし、日本の場合は対立が極端になっているのが心配です。戦争の被害を強調する人は、無意識のうちに平和国家である日本は戦争を放棄していない世界の主要国より倫理的に優越していると考えています。テロや海賊の抑止、核拡散の抑止のために、有志連合や国連の努力が行われているわけですが、そのような活動に対して極端に冷淡な態度は国際的孤立を招きかねません。

一方で、日本における戦没者の英雄視は、場合によっては、枢軸国日本の戦争政策を肯定しているという印象を与え、「国際連合=連合国」を中心とした国際秩序に敵対しているという誤解を生む危険があります。こちらも、国際的孤立の原因となる危険性を秘めています。

そう考えると、両者の対立がより極端になっていくようでは、将来が心配です。安倍首相の場合は、2013年12月の自身による靖国参拝が、国内対立を激化させつつ、国際的な孤立を招く危険性を生じたわけですが、その後の安倍政権は、靖国参拝を自制しつつ、オバマ前米大統領との広島と真珠湾における相互献花・共同追悼の外交を成功させました。

この点で気になるのは、ポスト安倍の政権がこの問題にどう取り組むのかという点です。日本の孤立化を狙う諸外国の勢力が、より活発化している時代でもあり、深い洞察と果敢な行動力が求められます。何よりも国内の対立を沈静化しつつ、米国との共同献花外交は、長崎はもちろん、沖縄や硫黄島などの激戦地でも順に実現できれば良いと思います。

また、いきなり中国や韓国は無理でも、シンガポール、マレーシア、インドネシア、ベトナム、フィリピンなどとの首脳同士による共同献花外交を進めることも考えられます。政治色を薄めつつ新時代の皇室外交のテーマにすることも検討してはどうでしょうか。

戦争による膨大な死の記憶とどう向き合ったらいいのか、8月15日を契機として、またポスト安倍の時代を見据えながら考えなければならないと思います。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウ大統領府長官の辞任、深刻な政治危機を反映=クレム

ワールド

トランプ氏、ベネズエラ大統領と電話会談 米での会談

ワールド

ネクスペリアに離脱の動きと非難、中国の親会社 供給

ビジネス

米国株式市場=5営業日続伸、感謝祭明けで薄商い イ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 5
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 6
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 9
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 10
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story