コラム

伊勢志摩サミット、日本文化の真髄として伊勢神宮の紹介を

2016年03月01日(火)17時00分

 1つ目は、神道についてその全体像を理解してもらうことです。欧米のキリスト教徒からは「原始的なアニミズム」という蔑視を受ける危険性は否定できません。これに対しては、ルーツとしての修験道や道教の影響、あるいは陰陽道やオホーツク文化の影響、世界のどこにでもある収穫への祈りとの関連、そして何よりも多種多様な「カミ」の存在が日本の歴史の多様性と重層性を象徴していることなどを学術的に説明すれば、首脳夫妻も報道陣も目を輝かせて聞き入るのではないでしょうか。

 2つ目は、特に神宮の成り立ちについてです。「天照大神(あまてらすおおみかみ)」、つまり記紀によれば天皇家の祖先とされる神を祀った「内宮」が神宮の中心にありますが、この「内宮」は、ある時代にヤマト政権が全国支配を確立して、その権威を誇示するために建立したものでは「ない」と言われています。反対に、東方の種族との和解の証として建てられたという説があります。そのような議論は、各首脳や記者たちの関心を集めるでしょう。

 3点目は、庶民信仰の問題があります。江戸期には「伊勢講」という一種の互助会が全国に組織されていて、巡礼者への旅行費用のファイナンスをしていたこと、その一方で「伊勢信仰」というのは、古代へのあこがれというより「商売の神様」への素朴な感情の発露だったことなど、現代は多角的な研究が進んでいます。そうした観点から外宮の位置づけなどを紹介していけば「どうして内宮と外宮があるのか?」という質問に答える形で、日本文化の重層性を紹介できるのではないでしょうか?

【参考記事】どうして日本人は「ねずみのミッキー」と呼ばないの?

 4点目は、式年遷宮に関してです。式年遷宮は神道の重要な概念である「清浄さ」を維持するという思想を背景に、690年以来、延々と実施されてきました。ですが、それは天皇家が一貫して行ってきたのではなく、例えば武士政権の時代には、武士により資金が集められていますし、現代では民間の寄付でまかなわれています。つまり日本というのは祭政一致国家ではなく、複雑で多様な社会であり、その多様性の中から生まれた自発的なエネルギーによって、この式年遷宮という手間もお金もかかる伝統を維持してきた――この「パトロンの多様性」という点に関しての説明も必要でしょう。

 5点目は、日本の宗教の多様性についてです。そこには、神仏習合の問題という興味深いテーマがあります。神道と仏教という「全く異なる思想体系」が、どのように重なっていったのかを調べることは、人類に普遍の価値、すなわち「異なる価値観の共生」や「ロジカルな思想と感性的な思想のバランスと共存」といった問題にリンクする、実は極めて今日的な問題でもあるのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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