コラム

ワクチンをめぐる「差別」の危険な勘違い

2021年12月22日(水)19時00分

この定義は主に人種、ジェンダー、性的指向、出身地、身体的な特徴、宗教、階級、健康状態など、特定の属性を持つ人に対しての排除行為、否定行為を指すものとして用いられる。現代社会になってから注目され、問題視されてきたもので、社会の改善すべき点を指摘するときに用られることが多い。これらの分野において、個人に対する不当な区別はあってはならない! 今も続いている議論や運動、教育が長い時間をかけた末、その認識はやっと広く普及してきているのだ。

今の時代には、差別の話をするときは大抵、後者の定義に沿うことが多いだろう。しかし、ここでは、前者の定義も使いたいので、わかりやすくするため、ここで不当な差別を「差別」と表記させていただこう。つまり、妥当な区別は差別。不当な区別は「差別」として使い分ける。はい。紛らわしいです!

でも、この紛らわしさに気付いていただくのが、今回のコラムの目的だ。

「差別」への誤解が無用な反発を生む

メディアや世論はワクチン接種者と非接種者への待遇の違いを差別として取り上げ、語ることが多い。だが、その差別が「差別」かどうかの解説はほとんどない。この傾向には強い危機感を覚える。

多くの人々は、差別と聞くと「差別」をまず思い浮かべて、「あってはならない」と条件反射的な反応をする。それを狙って、そうした言葉遣いを選んでいる計算高い発信者もいるようだ。そこで「どちらの『差別』なんだろう」と検証しないといけないことに聞き手が気付けばいいが、そんなリテラシーの高いメディアユーザーは、このコラムの読者ぐらいしかいないだろう。

だから、誤解を招かないように、発信者は責任を持って区別という意味での差別という言葉をなるべく使わないべきだ。そうしないと、差別を「差別」と勘違いし、妥当かつ有意義な政策や対策に反発を呼び起こしかねない。

もちろん、ワクチンの接種者と非接種者の取り扱いの違いが不当であることもあり得る。例えば、アレルギー体質などの身体的な理由で接種ができない人に対する排除行為、否定行為、いやがらせ、いじめなどはきっと「差別」となり、なくすべきことだろう。啓発活動も、接種と同等の権利が得られる制度の策定も必要だと思う。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航

ワールド

ゼレンスキー氏は「私が承認するまで何もできない」=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story