コラム

五輪をIOCから守るためにできる3つのこと

2021年08月24日(火)18時00分

選手に決定権を!

お金の使い方と開催時期の問題の解決策は明快だ。オリンピック関連の決定権を選手達に委ねることだ。

今のところ、決定権はほぼ全てIOCにある。そしてIOC委員には現役アスリートや国際競技団体から選ばれた人もいるが、委員になってしまえば現役選手に対する説明責任は生じない。なぜなら、委員は委員によって選ばれるからだ。これ、秘密結社とか、『ファイトクラブ』っぽい感じがするね。どんな組織でも第三者機関によるガバナンスがなければ、ブレーキのかからない権力構造となってしまう。アスリートファースト(選手第一)を実践したいなら、アスリートの投票でIOC委員を選出する制度に変えるべきではないか。

例えば、五輪が終わったら、総選挙があって、オリンピック選手が次期IOC委員を選ぶようにするとか。招致の条件、利益の分配、お金の使い方、開催時期などなどを検証して投票する。IOCがいい仕事をしたと判断したら、選手たちが委員を続投させる。不満があれば、交代させればよい。何だったら、閉幕式の最後に選挙結果を発表したら盛り上がるだろうね。選手の皆さんは大満足!IOCは全員再選!でも盛り上がるし、花火と一緒に不評の委員が飛ばされるのも面白そう。

自分の将来がかかっていると感じたら、IOC委員は票を握る末端の選手たちをもっと大事にするだろうね。みんなにシェフ付きのスイートルームを提供しないまでも、少なくとも猛暑の中で走らせないだろうね。もちろん、「優秀な首脳陣を確保するために、VIP待遇しよう!」とか、「視聴率と放送権料を優先して、暑さを我慢しよう!」などと、現役選手も今と同じ判断をするかもしれないが、それはそれでいい。

受動的に与えられた条件ではなく、能動的に自ら選んだ道だから本人たちも納得するしかない。僕の母は父に文句を言われたときにいつも「こんな私と結婚した自分を責めてください!」と言い返していたのを思い出す。同じ理屈だ。結局は離婚したけどね。

国際協力の演出を!

この最後のアイデアはおまけだが、個人的にとても強く望んでいるものだ。「平和なスポーツの祭典」を謳う五輪だが、国際協力よりも愛国心を煽る演出が目立つ。国旗の下で入場し、国同士で競争する。優勝した国だけの国歌が流れる。各国のテレビ局は自国の選手ばかり放送し、国民は自国の選手を中心に応援する。ぱっと見、国家主義の塊に見える。

しかし、国境を越えた感動的なシーンも毎回垣間見える。今回は女子バスケ決勝戦の後、日本代表の写真撮影にアメリカやフランスのチームが飛び込み参加し、多国籍36人の珍しい記念写真ができた。スケートボードでは、転んでメダルを逃した岡本碧優選手を、オーストラリアとアメリカの選手が肩に担ぎ上げて元気づけた。走り高跳びの決勝では決着が付かなかったイタリアとカタールの選手が審判からの提案で、二人で金メダルをシェアすることにした。どれも、平和の祭典にふさわしい素晴らしい光景で、視聴者の記憶に残るだろう。走り高跳びの使われなかった銀メダルもどこかに残っているはずだね。

個人レベルの偶発的な国際協調は素晴らしいが、せっかくだから、演出でも同じような要素を加えてもいいのではないか?ほかの国の選手と並んで入場する?会場の客席に一つずつ旗を置いて、観客が自分の席においてある国の旗の選手を応援するようにお願いする?決勝戦の後、他国同士の選手を組み合わせ、親善のエキシビションマッチやオールスター試合をやる?などなど、やり方は、スケートボードのナイジャ・ヒューストン選手の不気味なタトゥーほどの数あるはず。(沢山あるってこと)。

僕は特に最後の案が好きだ。「中国とドイツペアVS日本と韓国ペア」の卓球ダブルスとか、見てみたい!単純に面白そうだが、有意義な試みでもある。他国を応援し、他国と協力することでファンも選手も楽しみながら国際人として成長できる。ちなみに、僕も卓球を通じて国際的な相互理解を深めている。4年前から福澤朗さんとプレーしているが、そろそろ「ジャストミート」を会得できそうだ。

オリンピックの問題は深刻で根深い。上記のもの以外にも、人権問題のある国での開催、不平等な開催契約条件、不透明な開催地決定プロセスなどの課題もある。しかし、直せないものはない。まずは予算に上限をつけて、選手にIOC委員の決定権を与える。そして、国際協力の要素を増やす。この三つからスタートすれば、イメージも、選手やファンの満足度も大きく跳ね上がるはず。そして、改善の好循環が生まれ、撒いた種が将来大きな果実を生むだろう。それを後世につなげる「成果リレー」が一番大事だね。

(ダジャレの方がまだ無難だ、倒置法より。あっ、使っちゃった。)

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story