コラム

東大入試を変えれば日本の男女平等が近づく

2021年04月20日(火)15時30分

なぜなんだろう。「理系に強い女子が少ない」や「アジアでは難しい」という説をよく耳にする。だが、マサチューセッツ工科大学の男女比はおよそ50:50。香港大学の学生は59%が女子。シンガポールの南洋理工大学は50%。アジアで理系の「ダブル課題」でもいけるようだ。

「入試の点数で決まるからしょうがない」という主張もよく聞く。しかし、これは説明として成り立っても、弁解にはならない。今の入試制度は「万有引力」や「ダチョウ倶楽部の譲り合い」のような、不動で逆らえない「法則」ではない。国民も政府も大学も求めている男女比の是正が達成できていないときは、制度自体を変えればよい。

ニューズウィークウェブ版のこの記事で、李娜兀さんは、女子学生の割合を2割以下から40%まで引き上げることに成功したソウル大学を実例に、入試制度のAO型へのシフトを呼び掛けているが、僕も賛成だ。アメリカでよく見られる「総合審査」を用いて、クラブ活動、ボランティア活動、コミュニケーション能力、文章力、地域や家庭の背景などを評価するのもいい。でもそれが大変すぎるなら、高校の成績だけでも審査対象に加えれば大きな効果があるはず。

男女平等以外の効果も

しかも、少なくともアメリカの場合、入試の点数よりも高校の成績のほうが大学でのパフォーマンスを正確に予測できるという調査結果が複数ある。日本でその調査は見たことはないが、3年間しっかり高校の授業に注力して良い成績を残した学生は、「5世紀から9世紀にかけての地中海世界において3つの文化圏が成立していった過程」を、冷え切った2月の冬の日に限られた時間内に答案用紙に記述できなくても、大学でもちゃんと勉強できるはずだ(今年東大の世界史の入試問題から)。

むしろ、そんな試験でパフォーマンスが出せるように毎日塾に通い、膨大な時間と努力を注いだ学生よりも、スポーツ、音楽、演劇、アルバイト、読書、料理、旅などを経験し充実した高校生活を送りながら好成績がとれた学生のほうが大学にも社会にも貢献するという見方もある。

そんな学生が、男性も女性も、富裕層からも貧困層からも田舎からも都市部からも集まり刺激しあい、学びあい、教えあう東京大学が実現できたら、男女平等以外にもさまざまな社会問題の解決にもつながるだろう。でもまず、ジェンダーギャップが是正されることは間違いない。いつの日かは世界ランク119位も夢ではないだろう!

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

仏ルーブル美術館強盗、さらに4人を逮捕 宝飾品は依

ビジネス

米財政赤字、10月は2840億ドルに拡大 関税収入

ワールド

米ホワイトハウス、パテルFBI長官解任報道を否定 

ワールド

ゼレンスキー氏「米国の和平案推し進める用意」、 欧
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story