コラム

東大入試を変えれば日本の男女平等が近づく

2021年04月20日(火)15時30分

では、どうやったら政治・経済の女性参加率を引き上げることができるのか。もっとも効果的な手段の一つは東京大学の学生の男女比の是正だろう。

東京大学は日本を代表する象徴としての存在感が大きく、女子学生の人数を引き上げることはジェンダーギャップ対策に取り組んでいる姿勢を世界に示すものとなる。さらに、五里霧中で進む道を探る国内の企業や教育機関にお手本として道を照らす、まさに灯台となり得る!(......偏差値の低いダジャレですみません。)

だが、インパクトはそこに留まらない。東京大学は、実力と権力を手に、日本の社会を形作るエリートの育成所として随一の影響力を持つ場所だ。実際に参院議員の15%が東大卒。衆院議員だと19%に上る。官僚の幹部候補生である国家公務員総合職の2021年度の採用試験の合格者も約15%が東京大学出身だという。全国では500人に1人くらいなのに、国会議事堂や霞が関の食堂でラーメンを派手にこぼしたら、だいたい何人かの東大卒に汁がかかるはず。

さらに、上場企業の社長の中では169人もの東大卒がいる(2020年7月現在)。芥川賞や直木賞など主な文学賞の受賞作家は100人近くいる。日本の歴代ノーベル受賞者も4人に1人以上もそうだ。どの分野を見てもすごい成績。高等教育機関がドラえもんの登場人物であれば、東京大学は明らかに出木杉英才君だ。

ある意味当然のことだ。厳しい入学審査を突破した卓越した人材が4年かけて日本一の教育環境でさらに才能に磨きをかけ、卒業後は東京大学のネームバリューと人脈を活かせば、それは成功するだろう。(と、簡単に言うけど......。)

海外トップ大と東大の差

ということは、その、凄まじい力を持ち日本の将来を握る東京大生が半分女性であったらどうでしょう?さらに、男性であっても、大学時代に先輩も後輩も同級生も、部活の部員も部長も、教員も半分女性であったらどうでしょう?

男女平等が当たり前な環境で育った人が制度を作る立場、社員を採用する立場、リーダーとなる立場、リーダーを決める立場になっていき、ジェンダーギャップが徐々に縮んでいくのではないか。数十年後には「ジェンダーギャップ」という表現自体も「フロッピーディスク」とか「トランプ政権」のように死語になっているかもしれない。

同様の思いから、男女平等を果たすための高等教育改革は海外では数十年前から取り組まれ、今は世界トップの大学はほとんど5割前後の女性学生率を実現している。では、東大はどうでしょう?今年の合格者の男女比は、8:2で依然、男子のほうが多い。国民の半分以上は女性だが、日本一の国立大学の恩恵を受けるのは8割男性だ。

実は、東京大学側にもちゃんと問題意識があって、2015年に女子学生を30%、女性教員を20%に引き上げるという目標を定めた。半分よりもずいぶん低いハードルでも、目標の2020年までに達成できず、女子在校生が2割、教授は1割以下にとどまった。各分野で何に挑戦しても成功する東京大学のみなさんだが、このチャレンジには相当苦戦しているようだ。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EUが外相会合、イラン制裁強化に向けた手続き開始へ

ワールド

米国務長官、ロシア防衛産業への中国支援問題を提起へ

ワールド

イスラエル戦時内閣、イラン攻撃巡る3度目閣議を17

ビジネス

英インフレ低下を示す力強い証拠を確認=ベイリー中銀
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 2

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア黒海艦隊「主力不在」の実態

  • 3

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 4

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 5

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 6

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 7

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 8

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 9

    【画像・動画】ウクライナ人の叡智を詰め込んだ国産…

  • 10

    【地図】【戦況解説】ウクライナ防衛の背骨を成し、…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...当局が撮影していた、犬の「尋常ではない」様子

  • 4

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 5

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 6

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 7

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story