コラム

日本は大坂なおみの二重国籍を認めるべき!

2018年09月25日(火)14時45分

そもそもイギリス、フランス、アメリカなど、西洋の国のほとんどは二重国籍を昔から認めている。さらに、この数十年でその数がどんどん増えている。メキシコ、イタリア、オーストラリア、ハンガリー、ブラジルなど、十数もの国々が90年代以来、二重国籍を容認するようになった。アジアにおいては、その数は昔から少ないが、2010年にお隣の韓国も法改正した。その韓国の狙いややり方は日本にとって、とても参考になるかもしれない。

韓国は日本と同じく、少子高齢化で深刻な労働不足に陥り、優秀な人材確保が急務となっている。そこで世界中に拡散している韓国系の人に目を付けた。親や祖父母、または本人が外国に移住して、外国籍をとったとき、昔の法律で韓国の国籍を放棄せざるを得なかった「元韓国人」が世界各地で活躍している。二重国籍を認めることで母国に帰ってくる人もいれば、外国にいながら、懸け橋的な存在として母国の発展に貢献する人もいるはずだ。外国籍だと韓国での経済活動などが自由にできないが、国籍さえあれば母国の力になれる範囲がぐっと広がると思われる。

日本も一緒だ。日本出身の人が世界で功績をあげていることは誰にも分かる。石黒一雄さんはノーベル文学賞を取った。中村修二さんはノーベル物理学賞を取った。オノヨーコさんはビートルズを解散させた。正確に言うと、みんな「外国人」だが、日本の誇りでもある。こんな「元日本人」は日本人のままでもよかったのではないか。同じように、有名じゃなくても各分野で一翼を担っている人々は無数にいるはず。日本を盛り上げるポテンシャルはそこに眠っているのだ。

日系じゃなくても、日本に人生をかけてくれる外国人もいる。そして、日本はそんな人を必要としているようだ。技能実習制度で働いていた人でも、政府は在留資格の対象人数を増やし、在留期間も伸ばし、更新も可能にしている。さらに2019年4月からは単純労働者を受け入れるために新しい在留資格を設けることになっている。これらの制度の下では、日本に家族を連れてきたり、永住権を取ったりすることはできないけど、おそらく、この先これも緩和されるとみる。いい人材を失いたくないからだ。

高度なスキルを持つ労働者だと、もっと必死に誘致している。「投資・経営」や「人文知識・国際業務」「医療」などの在留資格で日本にいる外国人は配偶者や子供を家族滞在ビザで呼べるし、数年日本に住めば永住権が取れる。さらに、条件を満たせば国籍ももらえる。日本にいてほしいからだ。しかし、そのためには母国の国籍喪失が避けられない。そうすると、母国での身分登録が消されたり、仕事や不動産の所有ができなくなったり、税率や学費が跳ね上がったり、国籍離脱税を取られたりと、国によって異なるが、代償が大きい。当事者にとっては、日本への貢献が認められ、報われるかと思いきや、逆に罰せられた気になるかもしれない。

世界の「できる人」はどこかに移り住もうと考えたとき、何の不利益もなしに国籍をくれる国とくれない国を天秤にかけたら、前者を選ぶはずだ。既に就労ビザなどで入って頑張っている優秀な人も、その国に投資するのか、起業をするのか、根を下ろすのか、将来をかけるのか、どれもダメージなしに国籍が得られるかどうかによって判断が変わる可能性がある。少子化が進む国々が人材を取り合っているなか、優秀な人ほど選択肢がある。そして、そんな人ほど自分の国にいてほしい。

韓国もそう考え、韓国系じゃなくても、条件を満たす外国人にも二重国籍を認めるようにした。基準はとても厳しいが、特別扱いするほどほしい、特別な人はいると判断したのだろう。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

野村、年内あと2回の米利下げ予想 FOMC受け10

ワールド

米関税15%の履行を担保、さらなる引き下げ交渉も=

ワールド

林氏が政策公表、物価上昇緩やかにし1%程度の実質賃

ビジネス

午後3時のドルは147円前半へ上昇、米FOMC後の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story