コラム

パックンが米朝首脳会談の合意内容を大胆予想!

2018年05月16日(水)13時00分

しかし、「完璧」にはならない。まず、日米が推す「一括廃棄」にはならないと見る。完全な廃棄をするのに数年かけながら、少しずつのご褒美を北朝鮮は求めてくるはずだし、それも許されるはず。なぜなら、経済制裁のカギを握るのはアメリカや日本ではなく、北朝鮮の隣国だから。中国や韓国が段階的な非核化を許した時点で、「一括」は期待できない。

アメリカが交渉テーブルから立ち去った場合、北朝鮮が核保有国のままでも中国は一方的に制裁を緩和する可能性が高い。そうならないように、アメリカが柔軟性を持って妥協案を受け入れるのが成立への近道。もちろん、中国も朝鮮半島の非核化を念願している。だから、交渉で双方の対立が過熱し、不成立で燃え尽きる前に、折衷案を出して熱を冷ますのも中国の役割かもしれない(題して冷やし中華?)。

段階的な非核化は、確かに恐ろしいシナリオだ。北朝鮮は多くて60の核兵器を持っているとされる。例えば月1回1個ずつ廃棄するとしたら、5年かかってもおかしくない。2020年の大統領選挙の時にはまだ数十個も残っているはず。

でも、それをホワイトハウスがうまくspin(プラスに解釈)するだろう。毎月、現場からの中継を入れて「北朝鮮の非核化が進んでいる!」とテレビで自慢するチャンスだ。しかも、選挙時期に中途半端な進捗状況になったら、トランプが「約束を勝ち取ったのは俺だ! 俺がいなくなると非核化が止まってしまう!」と主張するのが目に見える。

段階的な非核化の満了が20年以降にくるのは、むしろトランプにとって都合がいい。不履行になったり、非核化の最終確認ができなったりしても、それは次の大統領の仕事になってしまうから。温暖化対策や財政再建なども次世代に責任転嫁したトランプは、ここでも合意だけで逃げ切れることで満足すると、僕は読む。

さらに完璧からほど遠いのはCVIDの実質。非核化は本当にC(完全)なのか、I(不可逆的)なのか。全てがV(検証可能)にかかっているが、それはほぼF(FUKANO=不可能)でしょう。情報統制がお家芸の国が完全開放し、どこでもいつでも抜き打ち検査を受けるような制度を受け入れるはずはない。導入したとしても、北朝鮮には7000~10万もの地下施設があるとされる。自由に査察できるようにして、一日3カ所のペースで回るとしても10年近くかかる。もちろん、それ以外の隠し場所も無数にある。本当の非核化と嘘の非核化の見分けはほとんどできない。検証不可能といえよう。

でも、「検証」という名目は合意に入るはずだ。実際問題として、一度、核兵器の製造に成功し、それを立証した北朝鮮が非核化を宣言・実行したとしても、いざというときはいつでも「実はまだあるぞ」と、敵国をけん制することができる。廃棄した分、戦力は落ちるけど、核の場合は1つでも隠し持っていれば十分な抑止力になる。だから、余裕をもって北朝鮮はある程度の検証を許すだろう。記念日の軍事パレードはちょっと地味になるけど。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国万科の社債権者、返済猶予延長承認し不履行回避 

ビジネス

ロシアの対中ガス輸出、今年は25%増 欧州市場の穴

ビジネス

ECB、必要なら再び行動の用意=スロバキア中銀総裁

ワールド

ロシア、ウクライナ全土掌握の野心否定 米情報機関の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 10
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story