コラム

「やっちゃだめ」を全部やっちゃうトランプ大統領

2017年05月19日(金)18時15分

アメリカ人はやってはいけないことをガンガンやるアウトローが大好きだけど、大統領がそれをやったら…… Kevin Lamarque-REUTERS

<トランプ大統領がコミーFBI長官を解任したことは、やっぱり大問題。立場や時期を考えずに、わが道を行くトランプは見ていて面白いけど......>

部屋に空気がこもっていると思ったら、普通は窓を開けていい。しかし、潜水艦の乗組員ならやめるべきだ。

アメリカンジョークっぽいたとえだが、世の中には、普通ならやっても全く問題のない行為でも、やる人によっては許されないことがいっぱいある。万国の常識だ。僕もタイミングや立場、世間体などを意識して行動することの大切さを、"空気読み大国"日本に来てから一層意識するようになったが、アメリカ人でもわきまえる力は元々持っているものだ。

でも最近、その能力が明らかに欠けているアメリカ人がいる。はい、お察しの通り、トランプ大統領だ。

まずは、FBI長官の解任。指令系統からはみ出して、司法省の規則を破り、異例の証言で大統領選挙に影響を与えた長官は解任してもいい。それは当然だ。大統領の権限だし、本来はやるべきことだろう。しかし、その長官が捜査している対象が大統領本人の場合、長官の解任はやってはいけないことだ。捜査をやめるよう圧力をかけた後ならなおさら、一番やってはいけないこととも言えよう。

ビル・クリントン大統領は捜査妨害で弾劾裁判にかけられた。リチャード・ニクソン大統領は捜査妨害で弾劾されそうになって辞任した。大統領にとって、捜査妨害に見える行為は一番危険ともいえる。トランプはそれをわきまえられなかったのか......どうかは分からないが、FBI長官に手を出したことは致命傷になるかもしれない。

【参考記事】「トランプ大統領はウソつき。」

CIAに関しても立場をわきまえていないようだ。もちろん、CIAを批判したり、その情報を疑ったりすることは国民の権利だ。むろん、存在もしない大量破壊兵器を口実にイラク戦争を起こした過去があるから、政府からの発表に関しては、多少疑った方が健全だと思う、本来は。

しかし大統領というものは、シリア、北朝鮮、ISIS(自称イスラム国)などなどの対策を決定する立場にある。あらゆる情報・諜報に基づいて、軍事行動を決めなければならない日が必ず来る。そして、CIAからの情報を使って国民や外国を説得しないといけない。ゆえに、平時にその情報源の信憑性を損なうのは自分の首を絞めることとイコール。つまり、これも大統領がやってはいけないことになる。

裁判の判事やメディアを批判するのも、一般人ならやっていい。もっと言えば「メディア・裁判バッシング」はアメリカ人の趣味かと思われるぐらい、みんなが毎日していることだ。盛り上がるし楽しいよ、本来は。しかしメディアも含めて「4権分立」といわれ、抑制と均衡によって権力乱用を防ぐ、アメリカ政治の基礎となる制度の下で働く大統領なのだから、その批判も我慢しないといけない。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和

ワールド

ロシア高官、和平案巡り米側と接触 協議継続へ=大統

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 8
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story