コラム

芸人も真っ青? 冗談だらけのトランプ劇場

2016年08月19日(金)16時00分

Carlo Allegri-REUTERS

<大統領候補とは思えない暴言を繰り返し、都合が悪くなると「冗談だよ」と誤魔化すトランプ。そもそも掲げている政策からして冗談みたいなものばかり。もしかしたら、立候補自体が冗談だったんじゃないの?>

「冗談だよ。」

 僕はこの言葉にかなり敏感だ。聞き逃したなら、もう一回聞きたいくらい。面白ければ、冗談好きな一人として笑わせてもらえるかもしれないし、プロの漫才師として、パクれるかもしれない。

 よく聞く言葉だよね。面白いことを言ったつもりだけど、伝わらなかったとき。真に受けられたときに用いられる便利なフレーズ。一般の方は当然お好きに使っていただきたい。

 だが、お笑いのプロならこれは一種の失敗を認めることになる。基本的に僕らプロはあまり言わないようにしないと。上記のパクリ宣言の後にも「冗談だよ」と入れてしまったらだめでしょ? 本気でパクるし。

 そしてお笑い芸人以外にも、この表現を安易に使ってはいけない職業がある。それは政治家。もちろん、政治家も冗談を言っていい。ユーモアは有効なコミュニケーションスキルであって、逆に面白くない政治家はアメリカではなかなか当選できないのが事実だ。しかし、冗談かどうかわからないギリな発言は禁物中の禁物。

 そんな際どい発言が毎日のように話題になっているのが、アメリカ大統領候補のドナルド・トランプだ。

【参考記事】極右を選対トップに据えたトランプの巻き返し戦略

 先日、イベント会場の客席に大声で泣いている赤ちゃんがいたとき、トランプはお母さんに「気にしないでいいよ。私は赤ちゃんが大好きだ。赤ちゃんは泣くものだ。なんてかわいい赤ちゃんなんだろう! 気にする必要はないよ。」と優しく声をかけた。

 しかし、すぐその後また泣き出した赤ちゃんに対して、例のあの表現が出た。「冗談だよ」と、トランプ。「赤ちゃんを外へ連れ出してもらっていいかな?」と方向転換。そして「お母さんはさっきの俺の発言を真に受けたみたい。赤ちゃんに泣かれながらしゃべるのが好き、なんて風にね!」と続けた。

 確かに、会場ではみんな笑っていた。でも、その場にいない人にはその面白さが伝わらない。「赤ちゃんが好き」というのは一般的に冗談にとらえられない発言だからね。普通すぎるよ。それを冗談だと言って、親子を会場から追い出すのはとてもひどい行動に見える。翌日、「トランプ、赤ちゃんをイベントから追放する」みたいな見出しが各メディアに登場し、反響を呼んだ。

 するととトランプが、再び「冗談だよ」と弁解。つまり、イベントで「冗談だよ」といって、赤ちゃん追い出したこと自体が冗談だったってこと。もうわけがわからない!

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

マスク氏、「アメリカ党」結成と投稿 中間選挙にらみ

ワールド

米テキサス州洪水の死者32人に、子ども14人犠牲 

ビジネス

アングル:プラダ「炎上」が商機に、インドの伝統的サ

ワールド

イスラエル、カタールに代表団派遣へ ハマスの停戦条
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story