コラム

モハメド・アリ、その「第三の顔」を語ろう

2016年06月16日(木)16時30分

 でもアリの言葉の影響はそれだけではない。無数の人の心に残る哲学的な名言もいっぱい残している。ここで2つだけ紹介しよう。メッセージ性だけではなく、その巧みな話術にも注意してください。

"Don't count the days; make the days count."
(退屈してないで、有意義に日々を過ごせ)

 Count the days(日々を数える)は毎日を楽しまないで、早く過ぎていってほしい気持ちをあらわす。Make the days count は毎日、価値のある過ごし方をする。言葉の順番を入れ替えただけで全然違う意味になる。これはChiasmus(交差対句法)という、古代ギリシャの時代から重宝されている話術だ。その面白い形になっているからこそ、ありふれたようなアドバイスが名言に化ける。

 最後に、この励ましの一言:

"If they can make penicillin out of moldy bread, they can sure make something out of you."
(パンのカビだってペニシリンになれるのだから、お前だって何かになれるだろう)

 カビたパンでも人の役に立つことがある。自分の可能性を信じろ。落ち込んだとき、諦めそうになったときにアリのこういうメッセージに励まされた人は何人いるだろう。

 現に、アリの現役の姿をほとんど覚えていない僕でも、若いころに聞いたこの名言をずっと心の支えにしてきた。最初は笑えるものとして印象に残っていたが、大きくなるとともに「こんな僕でも何かになろう」という励ましのメッセージとして受けとるようになった。ここでも、翻訳や解説の難しさに何度もくじけそうになったが、最後まで「カビたパン精神」で粘った。アリのおかげだ。

 ちょっと苦戦したけど、アリの話術の魅力は伝わったでしょうか? アリのすごさは戦い方、生き方、そしてしゃべり方。3つのパワーで世界を変えた、正真正銘のthe Greatestだった。

 心からご冥福をお祈りします。

<ちなみに、僕は「話術の研究家」と名乗ったが、実は東京工業大学でコミュニケーション学を教えていて、『ツカむ !話術』(角川新書)という書籍も出している。7月10日には『大統領の演説』(角川新書)も出版予定。大統領の話術をひも説きながらスピーチ力がアップする内容です。興味のあるかたは是非お読みください。>

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米裁判所、トランプ関税還付を命令

ワールド

アングル:揺れるイラン、ハメネイ師後継に次男モジタ

ビジネス

午後3時のドルは157円前半で方向感欠く、原油動向

ワールド

台湾周辺での中国軍機の飛行が急減、米中首脳会談控え
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 6
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    戦術は進化しても戦局が動かない地獄──ロシア・ウク…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 7
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 8
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 9
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 10
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story