コラム
大谷和利 魅惑するプロダクツ
自動操縦車を思わせる超ハイテクオモチャ:Anki Overdrive
Anki Overdrive コースを記憶し、はみ出すことなく高速で走行することが可能なホビーレースセット Unboxing Anki Overdrive-YouTube
今回採り上げるのは、Anki Overdriveというアメリカのホビーレースセットである。
Ankiは「暗記」だろうか? オモチャとはいえ、Ankiのレースカーはプレーヤーが組み上げたコースを記憶し、物理的なガイド機構なしに、はみ出すことなく高速で走行することが可能なのだ。
ホビーレースの新しいシステム
少し過去を振り返ってみると、筆者が子どもの頃には、原宿の竹下通りの駅寄りの角にスロットレーシングのサーキット場が入ったビルが建っていて、表参道のソフトバンクの旗艦店のあたりにスロットカーを扱うプラモデルショップもあった。その頃に比べれば下火とはいえ、主に実車のスケールモデルを走らせるこの大人の遊びは、今もマニアに根強い人気を誇っている。
そして、ご存知ミニ四駆も、'80年台後半と'90年台後半に続いて第三次ブームの真っ只中にあり、かつて熱中した少年たちが親となって、自分の息子や娘さんと一緒に再び夢中になる姿があちこちで見られる。
これらの従来型のホビーレースに共通するのは、レーンが明確に分かれていること。つまり、スロットレーシングはその名の通りスロット(電源供給機能を持つガイド溝)によって、またミニ四駆は高さ5センチの隔壁によって、1台ごとの走路が決まっている。どちらもステアリング操作はできず、前者はハンドコントローラーによるスピードの制御、後者は走行前の車両のセッティングが、勝負の分かれ目となる。逆に、参加車両同士が最速のコース取りを狙って、レーストラックの幅を目一杯使いながら走るような競い合いは、物理的に不可能だ。
実車のカーレシングと異なるこうした制約は、それぞれの遊びとしての面白さにつながり、むしろレース中のドラマを生むポイントになっているので一概に欠点とはいえない(筆者自身も、ミニ四駆を3Dプリンタやレーザーカッターなどを使ってカスタマイズするFabミニ四駆カップを楽しんでいる)。
ただ、その一方で、スマートフォンやタブレット上で実現されたドライバー視点のレーシングゲームのように、自らハンドルを握る感覚で競走したいという願望が市場に存在するのも事実である。たとえば、ラジコンカーによるレースはそれに近いものの、そこそこ広い場所が必要となり、レースカーの向きとプレーヤーの向きが一致していないため、操縦の難易度も高めだ。
しかし、今や現実の路上で自動運転が実用化されつつある時代。ホビーレースの世界にも、電子技術と人間の能力や意図を融合して競い合える、新たなシステムが出現しても不思議ではなかった。
室内でも遊べるスケール感で、最新の制御技術に基づき、スマートデバイスをコントローラーにして気軽に、かつ奥深く愛車を操れるレース。それを実現したのが、Anki Overdriveなのだ。
コースパーツ上のパターンを読み取って記憶する
Ankiは、2013年のアップルの開発者向けイベントでオーバルトラックのAnki Driveを発表し、2015年には、自由にコースを組め、対戦色を強めたAnki Overdriveを発表。タイム誌によって、同年を代表する25の発明品の1つにも選ばれている。
ミニカーサイズの専用レースカーは、下面に光学センサーを備え、コースパーツ上の微細なパターンを読み取って記憶する。コントローラーとなるスマートデバイスのアプリにはAI機能が備わっており、車両の現在位置を常に把握して、ライバルの動きも予測しながらリアルタイムに最適の走行ルートを決定する。
各車両は放っておいても自動で周回するが、速度設定とステアリング操作はマニュアルでも行える。この仕組みにより、プレーヤーはコースアウトを気にすることなくレースの駆け引きに集中できるのだ。
加えて、各車両はバーチャルな特殊兵器(電子的な地雷やレーザーパルス砲)を備えており、それらを効果的に使って一時的にライバルの動きを封じたり撹乱することが可能なゲーム性も採り入れられている。レースに勝てば性能や装備を強化できるため、それが興味を持続させるインセンティブにもなる。
ちなみに、レースの開始時には各車をスタートラインに並べなければならないが、これも全自動で行われる。あちこちに散らばったレースカーが意思を持っているかのように整列する様子は、少し大げさにいえば、未来を垣間見るような感覚だ。それも遠からず、ごく普通の風景になるのかもしれない。
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