コラム

手書きをデジタル化できるスマートペンの現在形:Neo Smartpen N2

2016年02月16日(火)11時00分

既存の同種の技術に基づく製品と比べ、一般的なペンに近いサイズと形状で、おむすび型の断面を持つ筐体は、スタイリッシュにデザインされている。Neo Smartpen N2

アナログとデジタルのいいとこ取り

 スマートフォンやダブレットがこれだけ普及しても、紙の手帳やメモ帳を手放せないという人は多い。やはり、紙ならではの手軽さと、電池切れや故障のない安心感が、そうさせるのだろう。

 あるいは、今では笑い話かもしれないが、かつては記事の取材などで、インタビュー中のメモは慣行上問題なくても、ノートPCを取り出してタイプされると、話に集中していないように見えるためか、違和感を持つ向きもあったようだ。

 いずれにせよ、もはやアナログかデジタルかではなく、好みや状況に応じて適している手段を選べば済む時代になったわけだが、そのどちらにもメリットを感じるのなら、両方のいいとこ取りをする手もある。

 つまり、メモの場合は、紙に書けば落として壊すこともなく、燃えでもしない限り、内容を閲覧できなくなることはない。また、電子機器に入力すれば、配布や共有を楽に行え、クラウドサービスなどとの連携によって別のデバイスからでも確認できるようになる。

 したがって、両者をハイブリッド化できれば、物理的な記録としての紙の安心感と、原本がなくても参照できる電子デバイスの便利さを共に享受できるというわけだ。

 実のところ、こうした試みは一昔前から行われ、大まかに3つの手法に分けることができる。
 1つ目は、特殊なマーキングのあるノートに市販の筆記具で書いてスマートフォンなどのカメラで撮影すると、歪みなどが補正されたイメージとして保存できるもの。
 2つ目は、紙のノートに取り付けたセンサーによって、専用ペンで書いた軌跡を記録して、電子デバイスに転送するもの。
 3つ目は、特殊なパターンが印刷されたノートに専用のペンで書くと、それがそのまま電子デバイス上で再現されるもの。

 それぞれに一長一短はあるものの、デジタルとアナログのコンテンツを常に同一に保ちたいというニーズが満たせるのは、3)の方式だけとなる。

スマートフォンも紙のメモも大事という人のための筆記システム

 というのは、1)ではノートの同じページに書き足した場合、再度カメラで撮影する必要があり、しかもスマートデバイス側の元データが上書きされるわけではないため、新たに内容が少し異なるページのデータが増えていくだけなのだ。また、2)ではセンサーがページそのものを認識しているわけではないので、先にめくった紙を戻して書き足しても、そのページのデータに追加されることはなく、新たに書いた部分だけが別のページデータとして保存されてしまう。

 これらに対して、3)の方式の場合、ページが何千枚、何万枚になろうとも、専用ペンで書いた瞬間に、以前に書いたことのあるページか白紙の新しいページかが判別され、必要に応じて元のデータに追記、または新規データとして保存される。その結果、デジタルデータは、必ずアナログメモと1対1で対応する正確なコピーになるのだ。

 この技術の基本原理は、元々、スウェーデンのアノトが開発したものだが、これまでは専用ノートの価格が高価だったり、パターン読み取りのためのカメラを内蔵したペンが太くてスタイリッシュではないといった問題点があった。ところが、日本で起業し、現在は韓国のソウルに本社を移して製品開発を行っているネオ・コンバージェンスがリリースしたNeo Smartpen N2は、2015年のiFデザイン賞を受賞したペンと、B5版で1冊あたり360円(72P)から買えるノートの組み合わせによって、日常的に使える環境を作り出した。

 ここで使われている特殊パターンは、もし同じ密度で地球をすべて覆ったとしても、1点をペンで指せば、その座標を特定することができるもので、たとえ自分のノートが数十冊〜数百冊に及んでも、特定ページに書き足したコメントや図などが、即座にスマートデバイス上のデータにも反映される。しかも、描線の解像度は1インチあたり1100ドットで、256段階の筆圧も感知して反映される。

 これもまた、高度に発達した技術が魔法にしか見えないという例の1つであり、自分たちがまさに21世紀に暮らしていることを実感させてくれる製品だといえるだろう。

専用ノートに書かれた内容は、Bluetooth接続されたスマートデバイスの画面にリアルタイムで反映される。また、ペンの軌跡が数学的なストロークの座標で記録されるため、拡大しても滑らか、かつデータ容量も小さくて済む。


3.N2.jpg

韓国では、インターネット上で活動するWeb漫画家が作品制作に利用し、Neo Smartpenで描いたスケッチをコンピュータに転送して色付けなどの追加編集を行うようなことも行なわれている。

プロフィール

大谷和利

テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー、NPO法人MOSA副会長。アップル、テクノロジー、デザイン、自転車などを中心に執筆活動を行い、商品開発のコンサルティングも手がける。近著に「成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか」(現代ビジネスブック)「ICTことば辞典:250の重要キーワード」(共著・三省堂)、「東京モノ作りスペース巡り」(共著・カラーズ)。監修書に「ビジュアルシフト」(宣伝会議)。

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