コラム

フランスで大ヒットしたドキュメンタリー『TOMORROW パーマネントライフを探して』

2016年12月02日(金)16時00分

『TOMORROW パーマネントライフを探して』

<このままでは気候変動や人口増加によって人類が絶滅するという科学者たちの予測に衝撃を受けた女優とジャーナリストが、その解決先を求めて世界へと旅に出る姿を描いたドキュメンタリー>

解決策を求めて、世界各国で活動する人々に会いに行く

 ハリウッドでも活躍し、近年では監督としても注目されるフランスの女優メラニー・ロランと彼女の友人で、ジャーナリスト/活動家のシリル・ディオンが作り上げたドキュメンタリー『TOMORROW パーマネントライフを探して』は、21人の科学者グループが科学誌「ネイチャー」に発表した論文のニュースから始まる。その論文は、このまま自然環境の破壊が進めば近い将来、気候変動や人口増加によって人類が絶滅する恐れがあると警告していた。

 論文の内容に衝撃を受けたロランは、ディオンとともに解決策を求めて、世界各国で活動する人々に会いに行く。本編は、農業、エネルギー、経済、民主主義、教育の5章で構成され、各分野における様々な取組みが紹介される。具体的には、空洞化したデトロイトの街を変える都市農業、石油や機械を使わないパーマカルチャーで成功を収めたフランスの農場、公共の土地に野菜やハーブを植えて共有するイギリスのインクレディブル・エディブル(みんなの菜園)、アイスランド、デンマーク、フランスのレユニオン島における再生可能エネルギー開発、イギリス・ブリストルの地域通貨やスイスのヴィール銀行の補完通貨、インドの村で生まれた村民主体の革新的な民主主義制度などだ。

 この映画は、そんな取組みをただ次々と紹介していくだけではない。筆者が注目したいのは、ロランのこんな言葉だ。「パズルを組み合わせるように新しい物語を作ろうとした」。彼女と案内役のディオンは、様々な取組みと各分野の専門家のコメント、自分たちのトークを巧みにより合わせ、ひとつの物語にまとめ上げていく。このドキュメンタリーが、私たちの想像力を刺激し、前向きな気持ちにさせるのは、そんな物語の力によるところが大きい。

 彼らが旅のなかで見つけ出すパズルを結びつけ、物語に変える要素は、大きく三つに分けることができる。その要素には明らかに作り手の関心が反映されている。

 まず、草の根レベルの活動だ。インクレディブル・エディブルの発起人であるふたりの女性パムとメアリーは、地球の資源をテーマにした集会に参加したことがきっかけで、「地球を救おう」ではなく、身近な場所で行動を起こし、自分の家や道に野菜を植え始めた。それが賛同者を得て運動になり、国外にまで広がった。運動が生まれたトッドモーデンでは、82%が地元の食材を購入し、100%自給自足という目標に近づいている。

 インドでカースト制度最下層(不可触民)出身という運命を背負ったエランゴは、勉強して化学者になり、投票で村長に選ばれ、民意を汲む開かれた村民会議によってコミュニティの再生を成し遂げた。彼は村長のための学校も設立し、10年間で900人以上の自治体の長が訓練を受けたという。

プロフィール

大場正明

評論家。
1957年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒。「CDジャーナル」、「宝島」、「キネマ旬報」などに寄稿。「週刊朝日」の映画星取表を担当中。著書・編著書は『サバービアの憂鬱——アメリカン・ファミリーの光と影』(東京書籍)、『CineLesson15 アメリカ映画主義』(フィルムアート社)、『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など。趣味は登山、温泉・霊場巡り、写真。
ホームページ/ブログは、“crisscross”“楽土慢遊”“Into the Wild 2.0”

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 8
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story