コラム

フランスで大ヒットしたドキュメンタリー『TOMORROW パーマネントライフを探して』

2016年12月02日(金)16時00分

より複雑で多様な世界は力強い

 次に、小が大に勝る可能性だ。それは、経済学者ジェレミー・リフキンのエネルギーに関するコメントによく表れている。太陽、風、地熱などから生まれる新電力は至る所にあるため、小売業者が必要になる。数百万の小売業者が電力をひとつにまとめると、経済尺度の側面では小規模な原発を上回る。ドイツの大半の電力は小売業者と協力者によって作られている。大きな電力会社は権力集中に慣れているため、新電力に対応しきれない。

 農業にも同じことがいえる。デトロイトの都市農業のような小規模農業はどこでもできるし、生産地と消費地の距離を大幅に縮められる。石油や機械を使わないパーマカルチャーや生態系を守る有機農業であるアグロエコロジーといった小規模農業の取組みでは、多種類の作物が育てられ、高い生産性も備えている。

 そして最後に多様性だ。経済学者ベルナール・リエターは、マネーの問題点を生態系と結びつけて説明する。一般的なマネーの構造は、大小の違いはあっても同じモミの木の集まりにたとえられる。単一栽培には、疫病、火事、水不足、動物の減少などの弊害があり、単一通貨には、銀行破綻や経済危機という弊害がある。これに対して生態系には多様性があり、単一栽培を許さない。だからマネーにも、使用できる地域や範囲が限られた地域通貨や補完通貨が必要になる。

 映画の作り手が多様性を強く意識していることは、このリエターのコメントの直後に、レユニオン島にあるベローブの原生林が映し出されることからもわかる。そこでは1000種以上の動植物が生態系を作り上げている。そんな原生林と映画で紹介される様々な取組みは無関係ではない。草の根レベルの活動が人々を結びつけ、小規模農業や地域通貨が地産地消や自給自足といったサイクルを生み出し、コミュニティを活性化させていく。

 この映画の最後には以下のようなナレーションが流れる。


 「旅を通じて見えてきたのは新たな展望だ。あらゆる権限は一部の人間のものではなく、自然と同じようにすべてが繋がっている。より複雑で多様な世界は力強い。人間もコミュニティもより自由になる」

 この言葉は決して都合のいいまとめではない。映画に登場する人々の生き生きとした表情がそれを物語っている。


○『TOMORROW パーマネントライフを探して』
公開:12月23日 渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
(C)MOVEMOVIE - FRANCE 2 CINÉMA - MELY PRODUCTIONS

プロフィール

大場正明

評論家。
1957年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒。「CDジャーナル」、「宝島」、「キネマ旬報」などに寄稿。「週刊朝日」の映画星取表を担当中。著書・編著書は『サバービアの憂鬱——アメリカン・ファミリーの光と影』(東京書籍)、『CineLesson15 アメリカ映画主義』(フィルムアート社)、『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など。趣味は登山、温泉・霊場巡り、写真。
ホームページ/ブログは、“crisscross”“楽土慢遊”“Into the Wild 2.0”

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ソニーG、今期米関税影響は営業利益で1000億円の

ワールド

ウルグアイのムヒカ元大統領死去 「世界一貧しい大統

ビジネス

ソニーG、発行済み株式の1.66%・2500億円上

ビジネス

米BofA、2027年までに国内で150超の店舗新
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 6
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 7
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 8
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story