仲裁裁判所の判断が中国を追い詰める
中国が強く反発するのは、「中国が国際社会に挑戦している」という構図になるのを嫌がるからであり、国際社会から孤立するのを避けたいためだ。中国は、「国際秩序そのものを変えてやる」と宣言しているのであって、米国が主導する現在の国際社会に対抗する政治的・経済的ブロックを形成することが目的ではないからだ。
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そのため、中国は国際社会の支持を必要としているのである。中国には、「戦勝国である中国には、国際秩序を形成する権利がある」という思いがある。また、「これまで欧米諸国は、軍事力を用いて自国の権益を拡大してきたのに、自分たちの利益配分が確定すると、それを固定するために中国の発展を妨害している」という意識もある。「自分たちはやってきたのに、いざ、中国がやろうとすると非難して妨害するのは不公平だ」ということだ。
2つの世界大戦後、先進諸国は「もう戦争はしたくない」という思いを共有し、「国際問題の解決手段として戦争という手段を用いない」という価値観あるいはルールを築いてきた。しかし、中国はこの価値観を共有せず、同じルールでゲームをプレイすることを拒否している。自分が悪いと思っていない中国は、「中国を不当に抑え込む」先進国が「中国が間違っている」と言ったところで、聞く耳を持たない。仲裁裁判所の「判断」に対する中国の態度は、中国の意識をよく表している。
中国はこれから3つのことをやる
中国は今後、3つのことに力を入れるだろう。第1は、フィリピンとの協議である。フィリピンのドゥテルテ大統領はすでに、「フィリピンに有利な判断が出たら、中国と話し合う」と表明している。フィリピンは、「国際秩序を維持する」という目的ではなく、中国からより有利な条件で経済的援助あるいは投資を受けるためのカードとして「判断」を利用しようとしているのだ。フィリピンの態度は、金次第ということでもある。中国は、米国との軍事衝突を避け、日本や欧米諸国を含む国際社会からの非難を最小限に止めるために、一刻も早く当事国のフィリピンと和解する必要がある。そのために、中国はフィリピンに対して積極的な経済支援を表明することになる。
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第2は、南シナ海における中国の立場を支持する国々を獲得するための外交努力である。中国は、「判断」が出される前から「世界の60か国近くが、南シナ海における中国の立場を支持している」と主張している。「中国は国際社会から孤立していない」ということを強調したいからであるが、60か国と言われる国々の多くは、アフリカやラテンアメリカの国々であり、国際社会の中での影響力は限定的である。中国は、日本や欧米諸国といった先進諸国に対抗するために、ロシアを使ってバランスをとろうとするだろう。これは、中国の希望とは裏腹に、日本及び欧米諸国に対抗する中ロという構図を生むかもしれない。「孤立したくない」と思って採る行動がかえって、米国が主導する国際社会からの非難を高めるという皮肉な結果を生む可能性がある。
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