コラム

東芝は悪くない

2017年03月28日(火)16時00分

さて、今回の東芝事件とは何だろうか。

そう、東芝問題ではなく、東芝事件なのだ。事件とは、米国原発事業において、1兆円近い(債務保証を含め様々なコストとリスクを勘案すると、1兆円を超える可能性もある)大幅な損失が出るということだ。これは米国WH(ウェスチングハウス)中心の事業損失であり、それがすべてなのである。

したがって、東芝事件とは、米国の原発事業の大幅な損失、一地域の一事業の大幅な損失のことであり、東芝問題とは、この事件が起きただけのことなのである。

事業の失敗はどんな企業にでもある。

東芝も一事業に一回失敗しただけのことなのである。問題をあえて複雑にして、ガバナンス、チャレンジ、不正会計など四の五の複雑なことを言うのは無駄で、本質をわかっていない論者の戯言である。

不正会計は、この事件の余波として出てきただけであり、不正会計が法令違反なのかどうか議論は分かれるし、その可能性もあるのだが、それはまったく本質でもなく、真の意味で悪質でもない。東芝は犯罪者でも何でもないのである。

会計上の不正をして、持ち逃げしたり、一族の財団などに流し込んだのとは訳が違う。自らを利するためにやったわけではない(経営者個人について議論はあり得るが)。最大の被害者は東芝自身であり東芝全体であり、それは株主と同様に社員であり、実質的には社員が最大の被害者なのである。

海外大型買収自体が悪

したがって、問題は、なぜ原発事業に失敗したのか、なぜ損失がこんなにも大きくなってしまったのか、ということに尽きる。

まず、原発事業に失敗したのは、2006年に米国WHを買収したからである。これがすべての始まりだ。2011年の福島の事故は、買収という誤った意思決定のダメージをより大きくし、破綻を加速したが、それはレバレッジのようなものであり、本質的な要因ではない。だから、震災さえなければ、東芝は運が悪かっただけだ、という訳ではないのである。

WHの買収の何が問題か。

まず、3000億円で三菱重工業が買う流れで、3000億円でも高いと言われていたものを6000億円で無理矢理買いさらっていったことである。ここでのポイントは二つ。第一に、もちろん異常に割高で買うのは最悪である。阿呆だ。しかし、第二に、より重要なことは、海外大型買収を行ったことである。それ自体が悪いのだ。

なぜ、海外大型買収をしてはいけないのか。それは日本企業が海外大型買収で成功した例が一つもないからである。

なぜ成功しないのか。大きなものを買うからである。大きすぎる買い物をするだけの力も意欲も必要性も日本企業にはないからである。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ispace、公募新株式の発行価格468円

ワールド

パレスチナ自治政府、ラファ検問所を運営する用意ある

ワールド

維新、連立視野に自民と政策協議へ まとまれば高市氏

ワールド

ハマス引き渡しの遺体、イスラエル軍が1体は人質でな
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 10
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story