コラム

アベノミクス論争は無駄である

2016年07月07日(木)11時12分



論点B)25年ぶりの低い失業率、高い有効求人倍率となっていて、現在は非常に景気が良い。これはアベノミクスの成功を表している。

 失業率が低く、有効求人倍率が高いのは事実であり、新卒の雇用状況も非常に良く、新卒に限って言えば、正社員になろうと思えば、なれる確率は近年では最高である。一方、これは景気が良いことをあらわしているわけではなく、経済政策のおかげでもない。

 通常は、経済政策は雇用政策である。景気対策が必要なのは、失業率が高いと社会的にも経済的にも損失が大きい、とりわけ若年層の雇用が少ないと、若者が労働市場だけでなく社会からドロップアウトしてしまい、経済的にだけでなく社会的に大きな損失となってしまうからである。そのため、失業率が高くなれば、景気対策をして失業を減らすわけである。

 しかし、現在は、これらの議論が当てはまらない。

 第一に、失業率が低いことは景気が良いことを意味しない。失業率と景気とはリンクしないのである。失業率が低いのは、構造的な人手不足によるものであり、景気とは別次元で決まる。失業率が低くても景気が悪いことはありうる。

 一方、失業率が低いことは、したがって、現在の経済政策がうまくいっていることは意味しない。人手不足をもたらしている経済政策であり、構造的に労働市場の発展を阻害している可能性もある。ただし、これは政府の政策で解決できる問題ではなく、長期的な問題である。長期的な経済政策、本当の意味での成長政策が必要である。それは成長戦略ではない。戦略などで出来るものでなく、社会的に地道な積み重ねによるものであり、一歩一歩、社会を良くしていく事でしか実現できない。

 したがって、目先の経済政策論争と失業率とは、現在の状況においては、無関係なのである。

 雇用の増加は、失業率よりは景気に連動した指標で、雇用が増えているということは、経済活動が増えていることになるだろう。

 ただし、現状の雇用の増加のほとんどは65歳以上の労働人口の増加によって説明できる。これは、65歳以上の経済状況が以前よりも悪いために働かざるを得ないという面もあるし、長寿化、健康化により、高齢者が働く意欲が強くなったとも言える。団塊世代が65歳以上世代となったから、絶対的な人口が増えていることも大きく、これが一番の要因であり、したがって、雇用の増加も必ずしも景気改善を、現時点では意味していない。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中道改革連合、食料品消費税ゼロ「今秋実施」と野田氏

ワールド

ASEAN議長国フィリピンがミャンマーと会合、和平

ビジネス

景気判断「緩やかに回復」維持、景気下押しリスクに留

ワールド

時間的制約ある中で新たな選択肢示した=新党「中道」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の核開発にらみ軍事戦略を強化
  • 4
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 5
    飛行機よりラク? ソウル〜釜山「110分」へ――韓国が…
  • 6
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 7
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 8
    「怖すぎる...」モルディブで凶暴な魚の群れに「襲撃…
  • 9
    サーモンとマグロは要注意...輸入魚に潜む「永遠の化…
  • 10
    宇宙人の存在「開示」がもたらす金融黙示録──英中銀…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 7
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 8
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 9
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story