雇用が回復しても賃金が上がらない理由
実質賃金が上がりにくい景気回復の初期段階
日本の名目賃金は、リーマン・ショック後の2009年には急落したが、その後は少なくとも大きく下がることはなくなった。他方で、実質賃金の方は2014年に急落している。これはしかし、その4月に実施された消費税増税が消費者物価の上昇に直結したからであり、必ずしも経済基調の変化によるものではない。
既述のように、実質賃金は本来、労働生産性の上昇とともに上がるべきものである。しかしながら、景気回復の初期においては、なかなかそれが現実化しない。それは、その段階ではまだ不況の中で拡大した労働の余剰が十分に解消されていないので、名目賃金が下げ止まりはしても、それが上昇に転じるまでには至らないからである。それに対して、物価の方は、総需要の拡大により徐々に上昇し始めることが多い。その場合、実質賃金は上がるのではなくむしろ下がることになる。
しかしながら、この段階で生じる実質賃金低下は、不況の中で生じるそれとはまったく意味が異なる。不況下の実質賃金低下は、1997年以降の日本のように「物価よりも名目賃金の方が大きく下がる」ことによるものである。それに対して、景気回復段階のそれは「名目賃金が物価のようには上がらない」ことによるものである。前者は一般に失業の拡大を伴うのに対して、後者は失業の縮小を伴うのであるから、その性格は正反対である。
アベノミクスの批判者たちはしばしば、それが実質賃金の低下しかもたらさなかったと批判する。確かに、アベノミクスが発動された2013年以降の実質賃金は、2014年の消費税増税の影響はあるにしても、ごく近年までは明らかに低下し続けてきた。
しかし、上の考察から明らかなように、仮に実質賃金の低下が生じていたにしても、それが失業の縮小と雇用の拡大を伴っている限り、それを否定的に捉える必要はまったくない。そして実際、アベノミクスの発動以降、日本の雇用状況は顕著に改善し続けてきた。
そもそも、ケインズが『一般理論』で明らかにした最も重要な論点の一つは、「労働需要の拡大のためには、名目賃金の低下は必要ないが、実質賃金の低下は必要だ」ということであった。実質賃金は、労働市場が完全雇用に近づいて始めて上がる。つまり、ケインズ的な考え方によれば、少なくとも雇用の改善が必要な不完全雇用の間は、実質賃金は必ずしも大きく上がるべきではないのである。
労働市場の構造変化と構造的失業率の低下
通常、労働市場が完全雇用に近づき、労働の余剰が解消された時に起きるのは、労働への超過需要拡大による名目賃金の上昇である。その段階では、物価も上昇するが、それ以上に名目賃金が伸び、実質賃金がようやく上がり始める。実質賃金はそこに至ってはじめて、本来そうあるべきように労働生産性の上昇と歩調を合わせて伸びるようになる。
日本経済は現在、おそらくそのような完全雇用点に着実に近づきつつある。というのは、地域の景況にもよるが、少なくとも非正規の労働市場では、各地で名目賃金の明確な上昇が生じ始めているからである。
とはいえ、正規も含めた労働市場全般においては、名目賃金の上昇は未だ十分ではない。その伸びの鈍さは、失業率や有効求人倍率といった数字の表面的な改善具合からすると、不可解なもののようにさえ写る。
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