コラム

国債が下落しても誰も困らない理由

2017年05月11日(木)06時50分

国債のキャピタル・ロスが政府のゲインである理由

一般に、国債金利の変動による国債価格の変動、すなわちそのキャピタル・ロスやゲインは、金利の変動幅と満期までの残存期間に依存する。以下ではそのことを、「新規10年物固定利付国債」を例に考察しよう。

政府が財政赤字の補填のために、表面金利2%額面金額100万円の10年国債を発行し、それを民間金融機関に売却したとしよう。そして、その売却の直後に、何らかの理由によって、市場における国債利回りが4%に上昇し、その4%の利回りがそれ以降10年間継続すると仮定しよう。

その場合、運悪くも金利上昇の直前にその国債を購入した金融機関は、国債利回り4%と表面金利2%の差し引き2%に対応する毎年2万円のインカム・ロスを満期までの10年間計上し続けるか、その国債を他の金融機関に売却して約16万2千円の売却損を確定するかいずれかになる。この約16万2千円というキャピタル・ロスは、毎年2万円だけ発生する10年間分のインカム・ロスの割引現在価値を、金利4%の割引率で計算した値である。すなわち、(2万円/1.04)+(2万円/1.04の2乗)・・・(2万円/1.04の10乗)≒16万2千円、である。この国債を途中売却した場合には、それまでに計上したインカム・ロスの分だけキャピタル・ロスは減少するが、それらをすべて合算すれば、結局は同じ値になる。

このように、保有国債の利回りがその購入時の収益率よりも上昇すれば、国債保有者は必ずキャピタル・ロスを被る。そして、上の計算式から明らかなように、そのロスは、利回りの上昇幅が大きいほど、そして満期までの残存期間が長いほど大きくなる。

しかしながら、そのキャピタル・ロスは、まさしく政府にとっての利得となっている。あらゆる債権と債務は表裏一体なので、債権保有者にとってのロスは、債務保有者にとってはゲインとなるのである。

もしこの市場での突然の金利上昇が、政府が国債を発行した後ではなく前に発生していたならば、国債の表面金利は2%ではなく4%になっていたはずである。その場合には、政府は4%の金利を10年間支払い続けることになり、国債にはキャピタル・ロスもゲインも発生しない。

それに対して、上例のように金利の上昇が国債発行後に生じた場合には、政府は「10年間の金利支払いが毎年4万円ではなく2万円ですむ」ことになる。その差額分の割引現在価値を金利4%の割引率で計算すれば約16万2千円となるのだから、政府はそれに相当する利得を得ていることになるわけである。

実際、もし政府が市場からこの国債を買い戻せば、83万8千円(=100万円--16万2千円)で償却できる。つまり、100万円の借金が83万8千円の返済ですむことになる。政府財政は当然、その分だけ改善する。

プロフィール

野口旭

1958年生まれ。東京大学経済学部卒業。
同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。専修大学助教授等を経て、1997年から専修大学経済学部教授。専門は国際経済、マクロ経済、経済政策。『エコノミストたちの歪んだ水晶玉』(東洋経済新報社)、『グローバル経済を学ぶ』(ちくま新書)、『経済政策形成の研究』(編著、ナカニシヤ出版)、『世界は危機を克服する―ケインズ主義2.0』(東洋経済新報社)、『アベノミクスが変えた日本経済』 (ちくま新書)、など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EU外相、イランが「無差別」攻撃で中東紛争を激化と

ビジネス

米国株式市場=反落、ダウ784ドル安 中東緊迫で原

ワールド

イランがディール求めて接触、原油高軽減へ近く追加措

ワールド

トランプ氏、イラン新指導者選びで米関与に意欲
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    「え、履いてない?」モルディブ行きの飛行機で撮影された、パイロットの「まさかの姿」にSNS爆笑
  • 3
    「ハリポタ俳優で終わりたくない」...ハリー・メリングが新作『ピリオン』で見せた「別人級」の変身
  • 4
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 5
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 6
    対イラン攻撃に巻き込まれ、湾岸諸国が存立危機
  • 7
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「旅客数が多い空港」ランキン…
  • 9
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 10
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story