コラム

渋谷の舞台フェスが面白そう

2011年03月10日(木)20時39分

 先日、ミュージカル『蝶々さん』を観に行った。プッチーニのオペラ『マダム・バタフライ』(もともとはアメリカ人が書いた小説)は外国人の偏見と誤解に満ちたもの、だから本当の蝶々さんを紹介しましょうというのが作品のスタンス。蝶々さんこと伊東蝶(演じるのは島田歌穂)と交流のあったアメリカ人宣教師の妻が狂言回しの役で物語が動いていく。セットはいたって簡単なもので、出演者も10人と多くない。ちょっとシンプルすぎると思わなくもなかったが、だからこそ想像力がかき立てられ、役者の一つひとつの動きや歌声がしっかりと心に刻みこまれる舞台だった。

 今の時代、DVDやネットなどであらゆる映像やパフォーマンスを見ることができる。それでもやはり生の舞台を見たときの充実感は何ものにもかえがたい。録画された映像ではアラも目立たないが、その分、全体のトーンが平ったくなってしまう。生身の人間が発する声や醸し出す空気、しぐさには、「ここではないどこか」へ私たちを連れて行ってくれる力がある。

 随分前のことになるが、高校時代の友人が小劇団で役者をしていた。新宿のタイニイアリスや下北沢の駅前劇場といった小さな空間でどことなく不思議で幻想的な芝居を観ながら、「正直、経済的には大変だよなあ」と思いながら、身体ひとつで何かを表現しようとする人たちに一種の憧憬を感じたりもした。

 最近は演劇を観にいく機会も減ってしまったが、これはちょっと面白そうと思ったのが、3月18日(金)~20日(日)に東京・渋谷で開催される「PLAY PARK 2011 ~日本短編舞台フェス~」という演劇祭だ。

 これまで大阪や神戸でやってきたフェスを、今回東京で初めて行うことになったという。ダンスから演劇、お笑い、ジャンル分けできないパフォーマンスまで、15分の短編で次々と出演者たちが変わっていくというのがミソ。誰もが名前を聞いたことのあるような大御所から若手まで60組以上も出演するというから(出演者数では日本最大級)、好きなアーティストを見に行くのもいいし、新しい劇団や表現を見つけに行くのもよさそうだ。

 先日、実行委員になっている「劇団鹿殺し」の菜月チョビさんたちと話をしたが、もっとファン層を広げたい! と考える演劇人たちが自発的に組織した公演だそうだ。こういう動きは、個人的にとても応援したくなる。

──編集部・大橋希


<3月16日追記>
東日本大震災で被災された皆さまへ心からお見舞いを申し上げます。まだまだ大変な状況が続いていますが、1日も早い復興をお祈りしています。
「PLAY PARK 2011~日本短編舞台フェス~」は震災の影響を鑑み、残念ながら公演中止となったそうです。

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国デジタル人民元、香港の商店でも使用可能に

ワールド

香港GDP、第1四半期は2.7%増 観光やイベント

ワールド

西側諸国、イスラエルに書簡 ガザでの国際法順守求め

ワールド

プーチン氏「ハリコフ制圧は計画にない」、軍事作戦は
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story