- HOME
- コラム
- From the Newsroom
- 戦争映画に思うこと
コラム
ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
戦争映画に思うこと
T.O.P(トップ)の、人を射抜くような目が好きだ。くっきりとした二重に大きな黒い瞳。長く濃いまつ毛でアイラインを入れたように目尻が際立つ。手が届くものならば、そのまぶたに触れたい──そんな目をしている。
韓国のヒップホップグループ「BIGBANG」のT.O.Pことチェ・スンヒョンが初主演した映画『戦火の中へ』が先月から日本で公開されている。朝鮮戦争で北朝鮮軍の猛攻に立ち向かった韓国の学徒兵71人の死闘を描いた作品。この血戦で命を落としたイ・ウグン少年が母親に充てた「送れなかった手紙」をもとに製作された。
BIGBANGのラッパーとしてステージに立つT.O.Pの目は、高慢で威圧的だ。昨年TBSで放送されたドラマ『アイリス』でスナイパー役を演じたときも、「人殺し」の雰囲気を存分に漂わせていた。だが『戦火の中へ』の冒頭約15分、その眼光にいつもの鋭さはまったくない。あるのは16歳で戦場へ送られた少年のあどけなさと恐怖。言葉もほとんどない。ただただ悲しい目で表情で、人を殺めることへの恐怖を訴えている。(いい意味で「へたれ」を好演しているのだ)
イ・ジェハン監督はこう言う。「登場人物の感情を絶対に逃したくなかった。T.O.Pには『演技をしなくていい、ただ感じてくれ』と注文した。感情も伝えなくていい。カメラも意識しなくていい。周りで起こっていることに繊細に反応してくれ、と」
爆発の轟音と鬼気迫る銃撃戦、一瞬にして手足が吹き飛ぶ血生臭さ──。これらも戦争のリアルさを描写していることに間違いはないと思う。でも派手な効果音と戦闘シーンばかりで、感情の機微が描かれていない戦争映画は好きになれない。最後には「正しい戦争」のために身を投げ出す兵士を「英雄」にして"ヒロイズム"にひたる映画も嫌いだ。昨年のアカデミーを制した『ハート・ロッカー』は、時限爆弾の音を聞きながら爆弾処理に陶酔するビデオゲームを見ているような気分にさせられた。
『戦火の中へ』にも、もちろん戦闘シーンや派手なアクションがある。この映画が傑作だと言うつもりもない。(T.O.Pとクォン・サンウをキャスティグして、製作段階から日本市場を睨んでいたであろうイヤらしさも少し気になる)。
それでも冒頭15分は見る価値のある作品だ。T.O.Pが市街戦でトラックに乗り込むシーンに、出兵時にトラックの荷台から母との別れを惜しんだ回想シーンを重ねるところなどは、さすが『私の頭の中の消しゴム』を撮ったイ・ジェハンだと思わせる。
だがもしかしたら、どんなに美しく悲しい映像よりも、いたたまれない気持ちにさせられるのは、イ・ウグン少年の手紙かもしれない。
お母さん、僕は人を殺しました。
それも石垣一つ隔てて。
僕は特攻隊員と共に手榴弾という恐ろしい爆発兵器を投げて
一瞬にして殺してしまいました。
お母さん、なぜ戦争をしなければならないのですか?
僕は怖くなります。
今、僕の隣にはたくさんの学友が死を待っているかのように
敵が襲いかかってくるのを待ち、
熱い日差しの下でうつ伏せになっています。
──編集部・中村美鈴
この筆者のコラム
COVID-19を正しく恐れるために 2020.06.24
【探しています】山本太郎の出発点「メロリンQ」で「総理を目指す」写真 2019.11.02
戦前は「朝鮮人好き」だった日本が「嫌韓」になった理由 2019.10.09
ニューズウィーク日本版は、編集記者・編集者を募集します 2019.06.20
ニューズウィーク日本版はなぜ、「百田尚樹現象」を特集したのか 2019.05.31
【最新号】望月優大さん長編ルポ――「日本に生きる『移民』のリアル」 2018.12.06
売国奴と罵られる「激辛トウガラシ」の苦難 2014.12.02