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ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
クルーグマン、中国に宣戦布告
長年くすぶってきた米中通貨摩擦が、開戦前夜の様相を呈してきた。米上院では16日、超党派の議員が為替操作で世界の景気回復を妨げる中国に対抗関税をかける法案を提出。24日には下院でも中国の為替政策を巡る公聴会が開かれる。当面の焦点は4月15日に財務省が発表する報告書。ここで中国が「為替操作国」に認定されれば、政府は中国と交渉する義務を負うことになる。
そんな中、ノーベル賞経済学者でプリンストン大学教授のポール・クルーグマンがニューヨーク・タイムズ紙の連載コラムでぎょっとするような「対中主戦論」をぶち上げた。要約すると次のような内容だ。
中国は人為的に人民元相場を低く固定して世界経済の足を引っ張っている。アメリカはこれまで中国との正面対決は避けて丁重に説得してきたが、もし中国に米国債を売られたとしてもアメリカは大して困らない。だから、心置きなく実力行使に出るべきだ。具体的には、中国製品に25%の対抗関税をかければいい。
中国が米国債を売ってきた場合でも、FRB(連邦準備銀行)が国債を買うことで金利上昇を抑えることができる。ドルの価値は下落するが、輸出競争力は増すのでアメリカはトクをする。困るのは、保有するドル資産の価値が減ってしまう中国のほうだ。
かくして中国は偉大なアメリカの前にヒザを屈し人民元を引き上げる、というシナリオだが、すこぶる評判が悪い。英デイリー・テレグラフ紙は「世界を脅かすノーベル賞学者」という見出しを掲げ、あまりに危険な内容なので最初は風刺かと思ったと書いている。米証券ユーロパシフィックキャピタル社長のピーター・シフは、ノーベル賞を剥奪すべきだと怒り、米タフツ大学フレッチャー法律外交大学院教授のダニエル・ドレズナーはクルーグマンがネオコンに成り下がった、と書いた。タイム誌や英エコノミスト誌、モルガン・スタンレー(アジア)のスティーブン・ローチ会長などもこぞって批判した。
先に要約したクルーグマンの議論は脳天気で、素人でも首を傾げたくなるところがある。だが、彼はもともと言いたい放題が信条。米政府で働いているわけでもない。それなのに、ちょっと対中強硬論をぶっただけで西側の「同胞」が大慌てで彼を黙らせようとしたところに、人民元と米国債問題の深刻さが表れている(ひょっとしたら中国政府への気遣いも)。
たとえばシフは、クルーグマンの提言に従った場合の以下のような終末シナリオを挙げている。
中国が米国債を買わずに他に投資するようになれば、人民元の価値は急上昇し、中国の物価は下落する。長い間贅沢をお預けにされていた平均的中国人の購買力がついに上昇し、すでに世界最大の人口を誇る中間層の押さえつけられていた消費が爆発する。
アメリカでは、中国からの借金で支えられてきた消費経済が崩壊する。輸入品を安く買うこともできない。中国でガソリンや食料品が安くなるのと裏腹に、アメリカでは高くなる。
シフは、中国が(かつての日本のように)輸出で稼いだお金を倹約して米国債を買ってくれているから今のアメリカがあると言っている。この歪みを正すには、人民元相場だけでなくアメリカの借金体質も時間をかけて直していかなければならない、と。だがクルーグマンのような強硬路線だろうとシフのような軟着陸路線だろうと、このままでは米中逆転は避けられないというのが多くの専門家の本音なのではないか。だから解決策を見つけるまで、そっとしておいて欲しいのに違いない。
中国は、時がくれば放っておいても人民元を切り上げる。それは長い目で見た米中主役交代の始まりかもしれない。日本が失敗した内需拡大にも成功し、アメリカに代わって世界中からモノを買うようになる日が目に浮かぶようだ。
──千葉香代子
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