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ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
「ロシアが攻めてきた!」の信憑性
3月13日、グルジアのテレビ局イメディは「ロシア軍が大規模なグルジア侵攻を開始し、大統領が殺害された」という驚くべき大嘘のニュースを放送した。08年の実際のグルジア紛争当時の映像をまるで最新映像であるかのように使用し、その間は「架空のニュース」だと説明もしなかった(番組の冒頭と最後には断りを入れたが)。
当然、08年の恐怖の記憶が鮮明に残る国民の多くはこのニュースを事実と信じ、パニックに陥った。心臓発作や気絶で病院に運び込まれる人も続出し、死者まで出る騒動に発展。ミハイル・サーカシビリ大統領はテレビ局を非難する声明を出したものの、ニュースの内容は「起こりえる事態に近い」と擁護する姿勢も見せている。一方、野党勢力などは、この放送は大統領が仕組んだものだと非難している。
野党の主張が正しいかは分からないが、そう考えるのも無理はないかもしれない。嘘ニュースの内容、つまり番組の脚本が、あまりにも現政権に都合よくできているからだ。
シナリオは、まず選挙で「親露」路線の野党が「反露親米」の与党に敗北するところから始まる。その後、選挙結果を不服とする野党が起こしたデモに政府側が発砲。だが実際に発砲したのはロシアのスパイと見られると番組は伝える。さらに野党勢力がクーデター政権を樹立するのと同時に、野党勢力の手引きをにおわせる形でロシアのグルジア侵攻が始まるというのが番組の筋書きだ。
実際、グルジアでは今年5月に地方選が、さらに13年には大統領選が予定されている。さらに野党勢力はここにきて、指導者たちが相次いでロシアを訪問するなど親露路線を強めており、対露関係の悪さという大統領の弱みを攻める姿勢を見せていた。
ニュースを見た国民がロシアの恐ろしさを思い出し、そのロシアと手を組む野党への支持を思いとどまる可能性はあったかもしれない。これが大統領の仕組んだものであれば、国内での支持率や国際社会での信頼の低下で追い込まれたサーカシビリ流の、瀬戸際戦術だったと考えることもできるだろう。だがいずれにしろ、騒ぎが大きくなりすぎたことで大統領の信頼は国内外でさらに大幅に落ち込むこととなってしまった。
ロシアは今回の騒動を受けて「挑発だ」などの声明を出し、不快感を示した。だが本心では、親米大統領が勝手に自爆したと笑っているかもしれない。
――編集部・藤田岳人
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