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コラム
ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
元イラン国営通信記者、東京の闘い
「核より民主化を!」「ハメネイもアハマディネジャドも独裁者はみんな出て行け!」
先週の金曜日、在日イラン人20人余りが日本プレスセンタービル前で抗議の声を上げた。来日中のアリ・ラリジャニ国会議長の記者会見にあわせたものだったが、この抗議活動の情報が耳に入ったからなのか、議長は直前になって予定をキャンセル、大使館内での会見に切りかえた。
それでも在日イラン人たちは雨の中、叫び続けた。偵察に来ていると思われる大使館関係者に訴えるために、そしてイラン国内で闘う人々を後押しするために。
元イラン国営通信・東京特派員のモクタリ・ダビッドさんも、こうした日本からイランの民主化を訴える運動に加わる一人だ。モクタリさんが約15年間勤めたイラン国営通信を辞めたのは08年末。アハマディネジャド政権下で国営通信は体制の道具と化していた。自己検閲が厳しくなり、政府に批判的な記事はすべて不掲載になる。「嘘をばらまく仕事はできない」と退職した。
現在はフリーとしてイラン国内のネットニュース向けに記事を書きながら、抗議活動や日本語で開設したブログなどで民主化支援を訴える。
イランで高まる反政府運動は昨年6月の大統領選の不正疑惑に端を発したものだが、モクタリさんは選挙はただのきっかけにすぎず、イスラム革命以来30年間我慢してきた国民の不満が爆発したのだと言う。「(選挙で敗れた改革派の)ムサビもカルビも反政府運動のリーダーではない。むしろ国民一人ひとりが自分で考え行動している運動に2人が引っ張られているかたちだ」
イラン指導部に「対話路線は通じない」とモクタリさんは言う。「聖職者であって政治家ではない彼らに、譲歩しあうという考えはない。世界はいつか自分たちのものになるというカルト的な考えの人たちとどうやって交渉するのか」。さらに現体制には国益という概念もないと指摘する。「彼らが守りたいのはシーア派の利益。今はイランという国を『箱』として利用しているだけ」
日本からとはいえ、反体制の声を上げるモクタリさんが、テヘランにいる親族の身を案じないわけではない。それはこの日、集まったほかの在日イラン人も同じ。様子を見に来た大使館員に写真を取られてもいいように、サングラスとマスクで顔を隠す人もいた。
でもそれは決して弱さではないと私は思う。権力者に抗うときに防衛手段をとるのは当然のこと。むしろ彼らの前に姿を現さなかった議長のほうが弱さを見せたのではないか。同じ理屈で、イラン国内で弾圧が強まるのは、権力も財力も手中に収め強者であるはずの指導部が、一般市民の力を何より恐れている証だ。
──編集部・中村美鈴
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