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コラム
ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
欧州超特急のナポレオン的過ち
海底を通るトンネルでドーバー海峡を横断し、最高時速300キロでロンドンとパリ、そしてブリュッセルを結ぶユーロスター。個人的に何度も利用したこともあって、いろいろと思い出深い電車だ。
この電車、07年に変更されるまでロンドン側のターミナル駅はウォータールー駅だった。これをフランス語読みするとワーテルロー、つまりフランスの英雄ナポレオンがイギリスなど連合軍に敗れた戦場の名前となる。イギリスに来るフランス人は、ユーロスターを降りるたびに不快な気持ちにさせられるという実に嫌味な趣向に、はじめてそのことを知ったときには「これがヨーロッパ!」と、なぜかうれしくなったものだ。
そんなユーロスターの名前を、ヨーロッパを離れてから久々に聞いたのが、昨年末から立て続けに発生している故障による立ち往生のニュースだった。12月には海峡トンネル内で列車が停止して2000人以上が閉じ込められ、1月にも同様の事故が起きていた。
さらに2月21日、乗客約740人以上を乗せたユーロスターは、夜の11時にイギリス国内アシュフォード近郊で「技術的問題」によって停止。非常灯も15分ほどで消えたために真っ暗になった車内で乗客は2時間も待たされたという。さらに自分で荷物を抱えたまま、はしごで線路に下ろされ、代わりの電車に乗り換えてロンドンに到着したときには午前2時30分になっていた。
今回の故障の原因はまだ調査中とされているが、昨年のものについては、寒波と大雪に見舞われた外気と、トンネル内の暖かい空気の温度変化による電気系統のトラブルが原因だったと2月13日に調査結果を発表。メンテナンスの不備に加え、故障に対する対応のまずさから雪対策ができないまま「ぶっつけ本番」で冬を迎えたのではと疑われるなど、運行計画にも非難が集まっているところだった。
そもそも冬は寒くて、雪だって降るものだ。それなのに、その準備さえしっかりできていなかったうえに、同じようなトラブルを繰り返すとは......。
ロンドンのターミナル駅が現在のセント・パンクラス駅に変更されたときには、ナポレオンが群集に「ワーテルローを忘れよ!」と叫ぶポスターが掲げられたユーロスター。だが、やはりナポレオンを敗走させた「冬将軍」のことは、まだ忘れるわけにはいかないようだ。
――編集部・藤田岳人
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