コラム

不遜なギリシャ首相はタダ者じゃない?

2010年02月18日(木)11時11分

 どの面下げて文句言えるのか、と思った。財政危機に陥っているギリシャのパパンドレウ首相が先週、EU(欧州連合)首脳会議がギリシャ支援で合意したことについて、感謝しながらも合意は遅すぎたと批判したのだ。助けてもらう相手に対して何という不遜な態度だろう。

 さらにパパンドレウは、EUがギリシャの財政悪化の原因をつくった前政権を監視しきれなかったことも批判した(彼は昨年10月の政権交代で首相に就任)。まるで日本の民主党政権の閣僚が、日本の財政悪化の原因をつくった自民党を監視しきれなかったとして有権者を批判するようなものじゃないか。

 でも、ここまで言えるのは彼がタダ者ではないからかもしれない。こんな逸話がある。フィナンシャルタイムズ紙によると、1952年生まれの彼が13歳のとき、軍政下の警官隊が彼の父親を逮捕するため自宅に踏み込んできた。ピストルを頭に突き付けられ、「父親の居場所を教えなければ撃つぞ」と脅されたが、彼は平然と「知らない」と答えたという。
 
 パパンドレウは米ミネソタ州生まれ。ギリシャに初めて来たのが8歳で、いわば帰国子女だ。父も祖父も首相を務めた名門政治家ファミリーに育った。アメリカとイギリスの大学で国際政治や社会学を学んだ国際派でもある。06年から社会民主主義政党の国際組織「社会主義インターナショナル」の議長を務め、世界中に人脈を持つ。自身の個人ウェブサイトは演説や公式行事の話ばかりで面白みはないけれど、ちゃんと英語版もあって外国への発信に力を入れていることが分かる。

 不遜で冷静で国際派のパパンドレウがギリシャ危機をどう乗り切るのか。今後の展開が何だか楽しみになってきた。

──編集部・山際博士

他の記事も読む

スポーツに政治を持ちこまない...わけにはいかない

中国政治「序列」の読み方

ユーロ危機を予測していたフリードマン

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

レゾナック、1―9月期純利益は90%減 通期見通し

ビジネス

三越伊勢丹HD、通期純利益予想を上方修正 過去最高

ビジネス

日経平均は続伸、景気敏感株上昇 TOPIXは最高値

ワールド

米公民権運動指導者ジャクソン師、進行性核上性麻痺で
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    「麻薬密輸ボート」爆撃の瞬間を公開...米軍がカリブ…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story