コラム

日本で子育てしにくい'3低'構造とは──「自己責任」の国際データ比較

2021年09月27日(月)20時25分

日本の場合、給付の水準も低いので、税控除の水準の低さをリカバリーしにくい。

保育所に通えない

そして第三に、保育所に通える子どもの割合の低さだ。日本では税控除も給付も少ないが、国際的にみて子育て世帯が働くハードルは高いのである。

図4は、0~2歳児のうち保育所(無認可を除く)に通えている割合だ。

mutsuji20210927164304.png

(出所)OECDデータベース.

日本ではその割合が30%を下回っている。これより低いのはラテンアメリカや東欧が多く、そのほとんどが「先進国」であることにクエスチョンマークが付く国だ。

逆に、この点で他の水準の低さをリカバリーしているのが、お隣の韓国だ。

韓国は税控除も直接給付も最下位に近い水準だが、この項目では堂々の5位に入っている。つまり、韓国では働いても税金を持っていかれる割合が高く、政府の補助もあてにできないが、少なくとも子育て世帯が働くチャンスは日本よりはるかに多いといえる。

3低構造を支える思想性

こうしてみた時、3項目全てで高水準の国はルクセンブルクなどごく一部だけで、多くの国は2つ、あるいはせめて1つの項目に重点を置くことで子育てを支援しているといえる。例えば、イギリスは子育て世代に対する税控除の割合は低いが、直接給付と保育所でこれをリカバリーしている。

これに対して、日本はメリハリなく、いずれも総じて低い水準にとどまっている。ここでいう3低構造である。

もちろん、どの国の制度も完璧ではないし、外国のものを移植してもうまくいくとは限らない。しかし、少なくとも、制度のあり方からその国の思想性をうかがうことはできる。

例えば、アメリカでは税控除の水準は平均より高いが、直接給付は乏しい。つまり、社会保障があまり発達していないアメリカでは、子育て世帯への直接支援には熱心でないが、所得税を減額することでこれに替えている。これは連邦政府への警戒心が強く、「人の金をとれば泥棒なのに、なぜ政府が税金としてそれをすることは認められるのか」といった議論がまかり通りやすいアメリカならではの傾向といえるだろう。

一方、イギリス、カナダ、オーストラリアなど、アメリカ以外のいわゆるアングロ・サクソン系諸国では、子ども向けの予算のうち直接給付の割合が高い。これは支給されたものをどう使うかの選択を個人、あるいは親に委ねるという考え方だ。

これに対して、フランスやドイツなどヨーロッパ大陸諸国では、子どもに関する予算の割合は総じて高いが、直接給付の割合はむしろ低い。これは現金給付より教育や保育といったサービスの拡充を優先させるもので、それはそれで「国家が国民一人一人の生活をトータルで支援する」という考え方をうかがえる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

伊藤忠、西松建設の筆頭株主に 株式買い増しで

ビジネス

英消費者信頼感、11月は3カ月ぶり高水準 消費意欲

ワールド

トランプ氏、米学校選択制を拡大へ 私学奨学金への税

ワールド

ブラジル前大統領らにクーデター計画容疑、連邦警察が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story