コラム

本物のバニラアイスを滅多に食べられない理由――知られざるバニラ戦争

2019年06月17日(月)12時55分

我々がいま食べているバニラアイスには、天然バニラは入っていない!? mikafotostok/iStock.


・バニラビーンズの取引価格は銀の価格より高くなっている

・その背景には世界的なオーガニックブームや中国などでの需要増加とともに、主な供給地マダガスカルでのハリケーン被害などがある

・バニラ・ブームによってマダガスカルでは好景気に沸く一方、奪い合いが激化している

夏に向けてアイスクリームやソフトクリームの需要が伸びる時期だが、「本物のバニラ」を食べられることは減ってきた。原料のバニラビーンズがいまや高級品になっているからだ。

バニラ価格が500%上昇

現在、日本で市販されているバニラアイスには「合成香料」や「香料」が使われることが多く、天然のバニラの種子、バニラビーンズを主成分とする「バニラ香料」が成分表示に記されているのは圧倒的に少数派だ。「本物のバニラ」が出回らない最大の理由は、価格の高騰にある。

2014年頃まで、バニラビーンズは1キロ20ドル前後で取引されていたが、その後価格が上昇し続け、2018年には約600ドルにまでなった。これは昨年の銀の平均取引価格(528ドル)より高い

なぜバニラビーンズ価格がそれほど高騰したのか。

そこには需要の増加がある。世界的なオーガニックブームで天然バニラの需要が上昇。中国をはじめとする新興国の生活水準の向上がこれに拍車をかけている。

その一方で、供給面の問題もある。最大の生産国であるアフリカのマダガスカルを、2017年、2018年と連続して巨大サイクロンが襲来。バニラ農家に大きな被害が出たことは、コストをさらに圧迫した。

mutsuji20190617104201.jpg

こうして価格が上昇したことは投資家を引き寄せ、さらなる価格上昇を生んだ結果、バニラビーンズの卸売価格は過去5年間で約500%上昇した。そのため、商品単価がもともと高い洋菓子店など以外では、ほとんど使用できなくなっているのだ。

マダガスカルのバニラ戦争

これと入れ違いに、価格高騰はバニラ生産国に好景気をもたらした。バニラ農家の多いマダガスカル北部を取材したBBCなど海外メディアは、好景気の恩恵を受ける農家や流通業者が家電製品やオートバイを新たに購入したり、住宅を新築したりする様子を伝えている。

mutsuji20190617104202.jpg

しかし、それと同時に、海外メディアのほとんどはバニラ・ブームの影も見出している。

価格高騰にともない、マダガスカルでは収穫間近のバニラビーンズの盗難や強奪が相次ぎ、農家のなかには山刀などで武装して一晩中バニラ畑を守らなければならない者が少なくないというのだ。

もともとバニラビーンズの栽培は手間がかかる。新芽が花をつけるのに3~4年かかり、受粉できるのは1年のうち数日だけで、開花から出荷まで16~18カ月かかる。600輪の花を手作業で受粉しても、乾燥バニラビーンズは1キロしかとれない。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日生米国法人がオープンAI提訴、チャットGPTが「

ワールド

湾岸航空各社、限定的な運航再開 ミサイルの脅威は続

ワールド

焦点:ECB、物価急騰を「一時的」と断じるのを回避

ワールド

原油先物6日ぶり反落、米が先物市場介入検討やロシア
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    「え、履いてない?」モルディブ行きの飛行機で撮影された、パイロットの「まさかの姿」にSNS爆笑
  • 3
    「ハリポタ俳優で終わりたくない」...ハリー・メリングが新作『ピリオン』で見せた「別人級」の変身
  • 4
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 5
    対イラン攻撃に巻き込まれ、湾岸諸国が存立危機
  • 6
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 7
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 8
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 9
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「旅客数が多い空港」ランキン…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story