コラム

「一帯一路」に立ちふさがるバロチスタン解放軍とは―中国のジレンマ

2019年05月20日(月)13時20分

ただし、これらのテロが中国にどの程度のダメージを与えたかは定かでない。中国人犠牲者について、パキスタン政府は詳細を発表しておらず、中国政府はゼロと強調している。

これに対して、例えば今年4月1日にカラチで中国人エンジニアとパキスタン人労働者を運んでいた22台の車両が爆弾で攻撃された事件では、BLAは「数名の」中国人を殺害したと主張している。

中国にとってのパキスタン

中国企業が標的にされるのは、大きなプレゼンスの裏返しでもある。

中国とパキスタンを結ぶ「中国パキスタン経済回廊」は、中国西部からパキスタン南部まで交通網を整備し、物流を加速させるプロジェクトで、中国にとっては南シナ海を迂回してインド洋へのルートを確保するものだ。これは「一帯一路」を構成する重要な部分で、とりわけバロチスタン州にあるグワダル港は、中国にとって戦略上の要衝とも呼べる

この背景のもと、2018年のパキスタンの中国からの輸入額は約142億ドルにのぼり、これは輸入全体の約24%を占める(IMF)。その一方で、ほとんどの国がそうであるように、中国との貿易はパキスタンにとって圧倒的な入超で、同年の貿易赤字は約123億ドルにのぼった。

それと並行して、パキスタンは安全保障面でも中国との関係を深めている。

パキスタンは冷戦時代からアメリカから軍事援助を受けてきた。しかし、現在では中国からみた最大の兵器輸出相手になっており、アメリカのランド研究所によると、パキスタンは2000年から2014年までに中国が輸出した兵器の42%を購入していた。それらの兵器の一部はBLA掃討にあたるパキスタン軍兵士によって使用されている。

BLAからみて中国は、もともと対立するパキスタン政府のいわばスポンサーと映ることだろう。

軍事的オプションは可能か

BLAのテロ攻撃は、中国にとって悩みのタネといえる。

中国ではナショナリズムの高まりに比例して「中国人の安全や権利」が侵害されることへの拒絶反応が強くなっている。そのため、バロチスタンで中国企業がしばしば襲撃される状態が続けば、国内の批判が中国政府に向かいかねない。

ところが、中国政府にとれる対策は限られている

「一帯一路」の拡大にともない、中国企業の安全を確保するため、その沿線上に中国が軍事基地を構えることも増えており、パキスタンでも基地建設が計画中といわれる。

ただし、基地を設けることと実際に軍事活動を行うことは話が別だ

人民解放軍がパトロールしたり、中国企業を警備したりすれば、BLAを抑え込むことはある程度可能かもしれないが、これは政治的にハードルが高い。これまで中国は「内政不干渉」の原則を掲げ、「外国で軍事活動を行うアメリカとの違い」を、主な国際的な足場である開発途上国にアピールしてきたからだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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