コラム

「カタルーニャ語が第一言語」と「独立賛成派」どちらが多いか

2017年12月01日(金)21時27分

カタルーニャ独立旗で自分の口を覆う青年。自治剥奪に伴い、スペイン政府が直轄するカタルーニャ州庁の前で、自治奪回と政治犯の釈放を求めるデモ(11月8日) Photograph by Toru Morimoto

<スペイン語よりフランス語に近いカタルーニャ固有の言語「カタルーニャ語」。カタルーニャ人のアイデンティティーの象徴だが、独立をめぐる議論では「ねじれ」が見られる>

カタルーニャには固有の言語「カタルーニャ語」がある。スペイン語の方言と思われがちだが、俗ラテン語から派生した南仏を拠点とするオック語圏の言語であり、イベリア半島を拠点としてアラビア語の影響を強く受けているイベロ・ロマンス語圏のスペイン語とは成り立ちが異なる。

スペイン語が第一言語の人々にとって、カタルーニャ語は厄介だ。例えば「食べる」はカタルーニャ語では「menjar(マンジャ)」、フランス語では「manger(モンジェ)」、イタリア語では「mangiare(マンジャーレ)」、スペイン語では「comer(コメール)」――スペイン語よりもフランス語やイタリア語に近く、ボキャブラリーだけではなく文法も違う。

カタルーニャ語は、被支配者であるカタルーニャ人にとっての誇りであり、アイデンティティーの象徴である。

カタルーニャ語は、13世紀から15世紀にかけて黄金時代を迎え、遠くはシチリアでも公用語だったが、1701~14年のスペイン継承戦争でバルセロナがスペイン勢力によって陥落すると、公的機関でのカタルーニャ語の使用は禁止された。

1939~75年のフランシスコ・フランコの独裁政権時には、カタルーニャ文化は徹底的に弾圧され、カタルーニャ語は公共の場で一切禁止。地名、ストリート名、個人名までもがスペイン語に変更させられた。

この暗黒時代には、約140万人にも上る多数のスペイン人がカタルーニャへと移住し、言語状況を大きく変え、カタルーニャの歴史上初めてスペイン語の話者がカタルーニャ語の話者を上回った。彼らは「もうひとつのカタルーニャ人」と呼ばれ、1970年にはカタルーニャ総人口510万の40%を占めていた。

流入した「もうひとつのカタルーニャ人」は、地元社会に溶け込む必要性は低く、言語間の壁もあり、現在でもなお――会話も触れるメディアも――スペイン語だけを使用した生活を営み、独立反対派が多数を占めると言われる。

ただ、フランコ独裁政権の崩壊によりスペインに民主主義がもたされ、1980年代以降はほとんどの学校でカタルーニャ語で授業が行われるようになっている。ここ40年に教育を受けた「もうひとつのカタルーニャ人」の第2、第3世代は、カタルーニャ語を話すことはできるが、家庭内では両親とスペイン語を話し、おおむね独立に反対か中立だという。

プロフィール

森本 徹

米ミズーリ大学ジャーナリズムスクール在学中にケニアの日刊紙で写真家としてのキャリアを開始する。卒業後に西アフリカ、2004年にはバルセロナへ拠点を移し、国と民族のアイデンティティーをテーマに、フリーランスとして欧米や日本の媒体で活躍中。2011年に写真集『JAPAN/日本』を出版 。アカシギャラリー(フォトギャラリー&レストラン)を経営、Akashi Photos共同創設者。
ウェブサイト:http://www.torumorimoto.com/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 10
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story