コラム

スタバを迎え撃つ中華系カフェチェーンの挑戦

2024年01月30日(火)17時52分
上海の瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)

上海の瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)。2017年に創業し、猛烈な勢いで店舗数を拡大している。2023年第2四半期における中国内売上額ではスターバックスを上回った(写真=2023年11月、筆者撮影)

<コーヒー文化が中国に根づき、上海は店舗数急増>

5年ぶりに訪れた上海ではカフェがすごいことになっていた。5年前に行ったときにもスターバックスはすでに進出していたが、この5年の間に中国の地場企業が始めたカフェチェーンがものすごく増えた。街を歩く人を見ても、コーヒーの入った紙カップを持ち歩いている人が多い。

ひと昔前の中国を知っている身からすると、まさに隔世の感がある。1990年代の北京にはそもそもコーヒーを飲める店がほとんどなかった。コーヒーが飲みたければ外資系ホテルのラウンジで高いコーヒーを飲むか、あるいはネスカフェを買ってきて自分で淹(い)れるしかなかった。

ただ、なぜかネスカフェの空き容器を多くの中国人が持っていた。それを持ち歩いてお茶を飲むマグカップとして使うのだ。朝たっぷりの茶葉をその中に入れてお湯を注ぎ、それにお湯をつぎ足しながら一日じゅうすする。当時、コーヒーが好きな中国人は少なかったので、彼らは空き容器を手に入れるためにわざわざネスカフェを買ってインスタントコーヒーを我慢して飲んだのかもしれない。

北京では中国茶が飲める喫茶店もきわめて少なかった。中国人にとってお茶はオフィスや会議室や家で飲むものであって、わざわざそのためにお金を払うようなものではなかったのである。

中国でカフェ文化を育てた米スターバックス

日本にはもともと喫茶店がたくさんあったし、1980年にドトールコーヒーの第1号店が開業して以来、日本発のカフェチェーンもいくつか存在した。アメリカ・シアトルで産声を上げたスターバックスコーヒーはアメリカとカナダで店舗を展開した後、北米以外の最初の出店先として日本を選んだが、日本であれば確実にお客を集められるとの目算があっただろう。スターバックスの日本での第1号店は1996年に東京・銀座に開業し、2002年3月末には345店舗にまで拡張した。

一方、スターバックスが中国・上海に第1号店を出店したのは1999年であったが、もともと喫茶店でコーヒーを飲む文化がなかった中国では、スターバックスが浸透するのにはけっこう時間がかかった。スターバックスは中国ではまず外国生活経験がある富裕な中国人や外国人旅行者を主なターゲットにしたのだと思う。出店先は富裕層や外国人が多く往来する大都市の繁華街に限られていた。顧客として富裕層と外国人を想定していたことは価格にも表れていて、どの商品も日本の1.5~2倍ぐらいの価格設定で、スターバックスで普通のコーヒーを買うのに必要な額がラーメンより高かった。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、トランプ関税発表控え神経質

ワールド

英仏・ウクライナの軍トップ、数日内に会合へ=英報道

ビジネス

米国株式市場=S&P500・ダウ反発、大幅安から切

ビジネス

米利下げ時期「物価動向次第」、関税の影響懸念=リッ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story