コラム

グーグルの自動運転が「完全自動運転」である必然的理由

2018年05月25日(金)17時01分

グーグルの自動運転プロジェクトは、以上3社のミッションが掛け算されたものだと言えるだろう。総じて、世界を根本から変えたい、よりスマートな社会システムに変革したいという想いで事業を展開しているのがグーグルなのだ。自動車にしても、運転そのものよりも、車のなかで快適に過ごすこと、その時間を楽しむこと、本来人がもっとすべきことに注力することをサポートするのがミッションであると彼らは考えているはずだ。

加えて収益構造を見ると、グーグル全体の約9割が広告収入であり、その観点からは広告代理店だと言える。事業構造の点では、アンドロイドに代表されるようにオープンプラットフォームを志向していることが特徴である。

以上から、グーグルが自動運転車において実現しようとしているのは、クルマというハードを作ることではないと推測される。彼らの狙いは、オープンプラットフォームとしてのOSを展開することで顧客接点を増やし、最終的には広告収入を増やすこと。多くの完成車メーカーにグーグル製の車載OSを使ってもらうことをまずは目標としている。特にOSや3次元高精度地図でそれを実現していくのがグーグルの最終目標だと考えられる。

またテクノロジー企業としてのグーグルは、IoT(モノのインターネット)の重要な一部が自動運転車であるという認識のもとで顧客データの収集を進めるだろう。「ビッグデータ×AI」によって顧客一人ひとりのニーズに合致したサービスや広告を、車内においても提供しようと画策しているのではないだろうか。

「モバイルファーストからAIファーストへ」「AIの民主化」を現在の同社CEOであるサンダー・ピチャイが宣言しているなか、自社の競争優位であるAIを存分に活用できる完全自動運転は、グーグルにとってうってつけの事業領域なのだ。

自動運転の牽引者グーグルは誕生時点からAIの会社

『WIRED』創刊編集長であり、米国のテクノロジー業界に大きな影響力を持つケヴィン・ケリーは、その著作である『〈インターネット〉の次に来るもの』(邦訳・NHK出版)のなかで以下のエピソードを紹介している。

「2002年頃に私はグーグルの社内パーティーに出席していた。同社は新規株式公開をする前で、当時は検索だけに特化した小さな会社だった。そこでグーグルの聡明な創業者ラリー・ペイジと話した。〈中略〉「僕らが本当に作っているのは、AIなんだよ」と彼は答えたのだ。〈中略〉AIを使って検索機能を改良しているのではなく、検索機能を使ってAIを改良しているのだ」

そして、グーグルにとってAIとは目的ではなく、自社のミッションという目的を実現するための手段。膨大な検索ビッグデータをAIで分析することによって、人が求めていることを読み解く。完全自動運転を実現することによって、それぞれの人がクルマのなかで最も有意義だと思うことができる世界を実現する。さらに完全自動運転車から集積したビッグデータをAIで分析することによって「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」というミッションの実現につなげる。

こういったことが、グーグルが自動運転を推し進めてきた理由なのではないかと筆者は考えている。

m_tanaka180525-cover.jpg

※本稿は、田中道昭『2022年の次世代自動車産業――異業種戦争の攻防と日本の活路』(PHPビジネス新書)の第3章 「『メガテック企業』の次世代自動車戦略」(全41ページ)の一部を再編集したものです。


ニューズウィーク日本版 ジョン・レノン暗殺の真実
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月16日号(12月9日発売)は「ジョン・レノン暗殺の真実」特集。衝撃の事件から45年、暗殺犯が日本人ジャーナリストに語った「真相」 文・青木冨貴子

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story