コラム

広域連続強盗に見られる「ピンポイント強盗」 対策の一丁目一番地は?

2023年02月03日(金)11時05分

ピンポイント強盗は、指示役による犯行の需要と実行役による犯行の供給が一致したときに発生する。前述したように、コストパフォーマンスの高さは、どちらかと言えば指示役の事情だ。これに対し、実行役の事情は経済的困窮である。借金返済などで金に困った者が高額報酬につられたケースが多い。

その背景には、「失われた30年」がある。「世界競争力年鑑」によると、日本の2022年の順位は34位である。筆者がケンブリッジ大学に留学した時期は1位だったので、日本は衰退の一途をたどってきたわけだ。

これでは、経済的に追い込まれた若者が、罪悪感もなく高度経済成長期にビジネスで大儲けした高齢者から金品を奪うのも一つの流れになってしまう。

そう考えると、いくら道徳を説いても、「あくどい商売をしてきた人から奪って何が悪い」「つけを払わされているのは我々」「公平を取り戻すためにやっている」といった反論が返ってくるだけだろう。むしろ、「厳しい刑罰や冷たい社会的排除を受けることになるから、犯行のコストは極めて高い」と利害打算に訴えた方が、ピンポイント強盗に手を染めなくなるかもしれない。

アリゾナ大学のトラヴィス・ハーシも、犯罪へと走らない最も重要な要素は、「特定の行為により被るかもしれないすべての損失を考える傾向」だと主張している。

犯行グループは二つの方法でデータ収集

前述したように、ピンポイント強盗は、「多額の金品がある家」という情報がなければ成立しない。したがって、「個人情報を知らせない」が対策の一丁目一番地になる。

もちろん、家に入らせない対策を貫徹できれば強盗を防げる。しかし、犯行グループはあの手この手で家のドアを開けさせようとするので貫徹は難しい。この点が空き巣との違いだ。ワンドア・ツーロックにしたり、強化ガラスを設置したり、警備会社と契約したりしても、住人自らドアを開けてしまったら何にもならない。

犯行グループがピンポイント強盗の基礎データを収集するには二つの方法がある。

第一は、振り込め詐欺でだましの電話をかけるわけだが、その際に個人情報を聞き出す「ヒアリング」である。「かけ子」は、電話相手に自分を信頼させるために、プライベートな話題も持ち出すが、その過程で「多額の金品がある家」という情報が出てくる可能性がある。

これは、「アポ電強盗」(アポイントメント電話に基づく強盗)と似ているが、電話した家で強盗を働くことを目的としているのではなく、ターゲットリストを作成するという色彩が強いので若干異なる。つまり、アポ電強盗をするつもりがなくても、詐欺をしようとして、偶然にピンポイント強盗に必要な情報を得ることもあるのだ。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米3月CPI前年比3.3%上昇、原油高でインフレ加

ワールド

ウクライナ高官、ロシアと和平合意に進展と表明 ブル

ワールド

訪朝の中国外相、金総書記と会談 国際・地域問題で連

ワールド

仏大統領、6月G7サミット後にトランプ氏を夕食会に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡散──深まる謎
  • 4
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 5
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 6
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 7
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 8
    戸建てシフトで激変する住宅市場
  • 9
    高学力の男女で見ても、日本の男女の年収格差は世界…
  • 10
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 6
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 7
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 8
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 9
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 10
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story