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安倍元首相銃撃事件で次の段階に進んだ「自爆テロ型犯罪」
凶弾に倒れた安倍晋三元首相(2020年5月4日) Eugene Hoshiko/Pool via REUTERS
<繰り返し指摘されている警備態勢の不備や宗教団体への恨みは事件のトリガーであって、そこだけにフォーカスしていては事件の本質は見えてこない。同種事件の再発を防ぐために必要なのは──>
安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件をめぐっては、警備態勢の不備と宗教団体への恨みが繰り返し報道されている。しかしそれらは、事件のトリガー(引き金)であって、そこだけにフォーカスした報道では事件の本質は見えてこない。本質が見えなければ、同種事件の再発は防げない。
同種事件とは、捕まってもいいと思って振るう暴力「自爆テロ型犯罪」だ。近時、そうした自爆テロ型犯罪が目立つようになった。
例えば、スクールバスを待っていた私立カリタス小学校の児童が刺殺された事件(2019年)、京都アニメーション(京アニ)が放火され社員36人が死亡した事件(2019年)、ハロウィーンの夜に悪のカリスマ「ジョーカー」に似せた服装をした男が京王線の乗客を襲った事件(2021年)、東京大学のキャンパス前で受験生が刃物で切りつけられた事件(2022年)は、いずれも自爆テロ型犯罪だ。
これらの事件では、「幸せ」のシンボル(施設やイベント)がターゲットになった。いずれも、攻撃の対象者は「特定」とまではいかないが「不特定」でもない。つまり、無差別事件ではなかった。
それが今回の事件では、「特定」の人物になった。
もっとも、「特定」の人物ということであれば、大阪市の心療内科クリニックが放火され、院長ら26人が犠牲になった事件(2021年)は「特定」に近いものかもしれない。ただ、容疑者が死亡している以上、断言はできない。やはり、「幸せ」のシンボルにすぎなかったのかもしれない。
「自爆テロ型犯罪」を防ぐには?
それはともかく、安倍元首相銃撃事件では、誰もが知っている要人がターゲットになった。特別の人物であり、したがって、明らかに「特定」の人物だ。とすれば、自爆テロ型犯罪が次の段階に進んだことになる。
その意味するところは、日本の置かれた状況が、犬養毅首相が殺害された五・一五事件や、高橋是清大蔵大臣らが殺害された二・二六事件と似てきたということである。もちろん、現在の自爆テロ型犯罪では、政治的闘争という色彩は薄いが、社会全体に不公平感が充満した状況の下、うっ積した不満が爆発したという点では同じだ。
繰り返しになるが、安倍元首相銃撃事件で指摘されている、警備態勢の不備と宗教団体への恨みは、事件のトリガーにすぎない。問題の本質は、不満の底流にある格差や貧困である。
五・一五事件や二・二六事件でも、軍国主義は事件のトリガーであって、失業者の増加や農村の娘の身売り(人身売買)が問題の本質だった。イスラム過激派によるテロも、宗教はトリガーであって、欧米諸国における移民の失業や、貧困にあえぐ国と先進国との経済格差が問題の本質である。
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