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SNSを駆使する「140字の戦争」 ニュースを制するのは誰か
アメリカのトランプ大統領やイスラエルのネタニヤフ首相はパレスチナ人を陥れる「物語」を拡散してきた(6月18日、ガザ) Ibraheem Abu Mustafa-REUTERS
<著者は戦場でそれを実感した。イスラエルがガザに侵攻すると、ウクライナにいた彼の下にSNSを通じて情報が入ってきた。メディアよりはるかに早く>
「戦争の本質が変わった」。中東を専門に取材する米ジャーナリスト、デイヴィッド・パトリカラコス氏は新著『140字の戦争 SNSが戦場を変えた』(江口泰子訳、早川書房)で指摘する。
同氏がこの点について初めて実感したのは、2014年春。紛争が続くウクライナ東部に入った時だ。主要メディアの報道よりも、個人が発信するツイッターによる情報の方がはるかに早かった。
同年6月、イスラエルがガザ侵攻を開始すると、ウクライナで取材を続けていたパトリカラコス氏のスマートフォンやラップトップに、ガザ地区の惨状を伝える動画と写真が、ツイッターとフェイスブックのフィードを通して続々と届いた。
現地にいなかったにも関わらず、パトリカラコス氏は「戦争がこれほど身近に感じられ、感情を揺さぶり、簡単に目撃できたことはない」と感じたという。「かつては国家だけがコントロールできた情報発信という極めて重要な領域を、ソーシャルメディアが個人に開放してしまった」現実を、目の当たりにした。
「ナラティブ」を作る
パトリカラコス氏によると、「戦車や大砲を使って戦う物理的な戦争」と、「おもにソーシャルメディアを使う情報戦」の二つの戦争が展開していた。
より重要なのは、「言葉やナラティブによる戦争を制する者が誰か」。
「ナラティブ」とは、日本ではほとんど聞かない言葉だが、「言説」あるいは「物語」という意味合いになる。例えば「こんな人が、この場所でこんな悪いことをしている」という「物語」を描いてみせることだ。
2014年3月、ロシアがウクライナ領クリミアを併合して国際社会を驚かせたことを覚えているだろうか。
ウクライナ政府と欧米諸国はこれを強く非難し、ロシアに対し経済制裁を発動した。前者にとってクリミア併合は国際的な違法行為だが、併合後に支持率が上昇したロシアのプーチン大統領は返還のつもりがないことを繰り返し述べている。一体、どちらに正当性があるのだろうか。
2013年ごろから、ウクライナでは親欧米派勢力と親ロシア派勢力との対立が次第に激化するようになったが、ツイッター上ではナラティブ・物語を支配するための戦いが起きていた。
例えば親ロシア派勢力は、対抗する親欧米派勢力の残虐行為を非難するナラティブを拡散していた。中でも悪質なナラティブの一つが「ウクライナ兵が三歳の幼児をはりつけにした」という投稿で、親欧米派の残虐行為を非難する内容のツイートが他にもたくさん発信された。こうした「物語」は、「共有され、数千回もツイートされた」。
戦場での戦争とプロパガンダの情報戦の組み合わせを「ハイブリッド戦争」と呼ぶが、パトリカラコス氏は、私たちが今遭遇しているのはプロパガンダ戦以上もので、「現実の作り直し」だと指摘する。
そして、ソーシャルメディアという道具を得た一般個人が、「物理的な戦場での戦闘と、それを取り巻く言説まで変えられる」、驚くべき力を持つようになったという。
『140字の戦争 SNSが戦場を変えた』は、その具体例を次々と紹介していく。
ツイートで情報発信したパレスチナの少女
最初に取り上げられたのは、ガザ地区に住む、16歳のパレスチナ人少女ファラ・ベイカーさんの話だ。
2014年のイスラエルによるガザ侵攻で、「欧米諸国のメディアが事実を捻じ曲げ、イスラエルを被害者に見せかけようとしている」と思ったベイカーさんは、ツイッターで情報発信を始めた。「戦争中にパレスチナ人であることはどういうことかを理解してもらう」ことが目的だった。ガザ地区の貴重な情報源として、ベイカーさんのフォロワーはあっという間に20万人ほどに増えた。
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