コラム

戦場では「笑っていた」兵士が、帰還後に自ら命を絶つ...戦争が残す深い「傷」

2022年04月02日(土)16時45分

「戦争は死んでいくビシネスだ」

同じ大隊の軍曹だったトム・ヘリング氏(71)は「作戦を開始した夜は雪や霜でとても寒かったです。橋には地雷が仕掛けられているかもしれないので、川を渡りました。仮設の橋が壊れてズブ濡れになり、体の芯まで凍えました。幸いにも地雷はプラスチック製で寒さのため多くが機能しなくなっていました。危険はみな覚悟していました」と思い起こす。

220402kmr_fkl03.jpg

トム・ヘリング氏。左上が空挺大隊の帽子(筆者撮影)

PTSDについて「私自身、間近で見てきました。この間、退役軍人と話している時も、戦術を語り始めると突然、彼が倒れたんです。何が引き金になるのか分かりません。記憶かもしれないし、何かを見たことが引き金になるかもしれない。眠れない時とか、死にかけたことを思い出すとか、友人や仲間が死んだ時のことを思い出すとか、いろいろなことがきっかけになります」と言う。

「恐怖を感じることもあれば、悲しみの場合もあります。仕事もせず、食事もとらず、自分の身の回りのこともできず、時に暴力を振るうこともあります。第一次大戦の砲弾ショックと何ら変わりません。しかし2つとして同じPTSDはないのです。風邪の特効薬を探すようなもので、治療法はないけれど緩和することはできます。普通の教育や会話が救済になるのです」

ヘリング氏は「戦争は死んでいくビシネスだ」と言う。その意味を問うと「2つの意味があります。まず、戦争で人は死んでいきます。そして戦争を終わらせる戦争が起きます。戦争そのものも死んでいく運命にあります。私たちには抑止力と安全保障が必要であり、そのために軍隊や情報機関などあらゆるものが存在します。戦争をせずに済ませることが本当の勝利なのです」と答えた。

「両親は戦争について話すことをためらっていた」

フォークランド諸島のジュニア大使を務めるタムシン・マクラウドさん(23)は「両親はずっと戦争について話すことをためらっていました。それは他の島民も同じで、PTSDのため長い間、戦争について話すことができなかったのです。40年たった今、彼らはようやく自分や家族に起こった出来事についてよりオープンに話すようになりました」と打ち明ける。

220402kmr_fkl06.jpg

タムシン・マクラウドさん(筆者撮影)

「私の家族が戦争でアルゼンチン軍に捕らえられ、人質として公民館に閉じ込められていたことを知りませんでした。最近になって知ったのです。彼らは戦争を過去のものとして前だけを向いてきました。尊い犠牲を払ってフォークランド諸島は解放され、自由を取り戻したのだから、それを受け入れ、祝いたいです」とタムシンさんは言う。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

独失業者数、11月は前月比1000人増 予想下回る

ビジネス

ユーロ圏の消費者インフレ期待、総じて安定 ECB調

ビジネス

アングル:日銀利上げ、織り込み進めば株価影響は限定

ワールド

プーチン氏、来月4─5日にインド訪問へ モディ首相
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 7
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 8
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story