コラム

COP26vs.怒れる若者たち、正しいのはどちらか──最大の争点は市場メカニズム

2021年11月08日(月)06時00分

アーチー・ヤング英首席交渉官は「6条はパリ協定の中心的な要素の一つだ。パリ協定は15年に合意されたが、各国が協力してこれを実行に移すことが肝要だ。そうすれば最も効率的で最小のコストで排出量を削減できるだけでなく、適応のための資金の流れも可能になる。6条には非市場的アプローチもあり、行動への野心を高めるため、市場メカニズム以外に幅広い活動のためのスペースが設けられていることも忘れてはならない」と付け加えた。

世界貿易機関(WTO)のジャン=マリー・ポーガム事務局次長は筆者に「若い世代の焦りを明確に理解している。彼らがそう言うのは正しい。ボリス・ジョンソン英首相の言葉を借りれば『私たちは今、真夜中の1分前にいる』。行動が長い間、求められてきた。いまは組織が動いている。少なくとも貿易と環境の世界ではこの2年間でパラダイムシフトが起きている」と答えた。

mimura20211107215302.jpg
ジャン=マリー・ポーガムWTO事務局次長(同)

「行動が始まっている。民間企業の場合、グリーンウォッシュを完全に非難することはできない。グリーンウォッシュはビジネスにとって気づきの第一歩だ。なぜなら民間部門が報告を始めると、経営最高責任者(CEO)は動機や行動について考え始める。グリーンウォッシュのあとの第2段階は実際に行動に移すことだ。だから、私は以前よりポジティブだ」

「宿題は山積みだが、楽観的。若者は少し辛抱を」世界銀行マネージングディレクター

世界銀行のマリ・パンゲスツ開発政策・パートナーシップ担当マネージングディレクターは筆者にこう語った。

mimura20211107215303.jpg
世界銀行のマリ・パンゲスツ開発政策・パートナーシップ担当マネージングディレクター(同)

「グリーンウォッシュがないことを確認するには多くの宿題を片付ける必要がある。そのためには多くの作業が求められ、一朝一夕にできることではない。COP26にはそれを正しく実行しようとする意志がある。そのためには作業を開始する必要があるが、時間がかかる。次に、ルールブックで合意した後はモニタリングや認証を行う方法が求められる。このようなメカニズムや制度を構築する必要がある」

「若者たちには『分かっています。あなたの行動を求める声は聞こえています。もう少し辛抱してください。すべてのことをなすには時間を要します』と伝えたい。多くの関係者の間でコンセンサスを得る必要がある。すべての関係者がもっと何かをしたいと望んでいるようなので、私は楽観的だ。しかし当然のことながら、宿題は私たちの前に残されている」

「すべての途上国は何らかのカーボン・プライシング(炭素への価格付け)と炭素取引のメカニズムを始める必要があると思うが、最も重要なのはどの国がそれを行う能力を持っているかを見極めることだ。私たち世界銀行は各国が適切なカーボン・プライシング・メカニズムやカーボン・トレード・システムを考えることができるように支援している」


「本当に排出と削減が相殺されたかどうか分からない」国連の若者グループリーダー

気候変動分野で活動する若者やその組織でつくる国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)青年組織のグループリーダー(ビジネスと資金担当)、カリシュマ・エンサラムさん(27)=仏IESEG経営大学院研究助手(炭素市場)=は筆者にこう解説する。

mimura20211107215304.jpg
カリシュマ・エンサラムさん(中央、同)

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

対ロ軍事支援行った企業、ウクライナ復興から排除すべ

ワールド

米新学期商戦、今年の支出は減少か 関税などで予算圧

ビジネス

テマセク、欧州株を有望視 バリュエーション低下で投

ビジネス

イタリア鉱工業生産、5月は前月比0.7%減に反転 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story