コラム

COP26vs.怒れる若者たち、正しいのはどちらか──最大の争点は市場メカニズム

2021年11月08日(月)06時00分
グレタ・トゥーンベリ

Yves Herman-REUTERS

<グレタ・トゥンベリをはじめとする先鋭的な若者たちは、「カーボン・オフセット(炭素の相殺)」は温室効果ガス削減の抜け道だとこきおろす。批判されている大人たち、交渉の当事者たちの言い分を聞いた>

[英北部スコットランド・グラスゴー発]一刻の猶予も許されない世界の地球温暖化対策の強化と実行を求めるスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリさん(18)が英グラスゴーで開催中の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)を「失敗」「PRイベント」「グリーンウォッシュ(ごまかし)の祭典」と徹底的にこき下ろした。COP26の1週目を終えた当事者はグレタさんの批判をどう受け止めたのか。

ジョー・バイデン米大統領はじめ世界約120カ国の首脳が集まったCOP26は実は大きな進展を見せている。中国、アメリカに次ぐ世界3位の排出国インドが2070年までの「ネットゼロ(温室効果ガス排出量を実質ゼロに抑える)」を約束した。世界の石炭使用量上位20カ国のうち5カ国を含む23カ国が石炭火力発電の廃止を新たに宣言し、30年までに温室効果ガスのメタン排出量を20年比で30%削減する目標に100カ国・地域以上が合意した。

国連の気候変動問題担当特使とCOP26でボリス・ジョンソン英首相の資金問題顧問を兼ねる英中央銀行・イングランド銀行のマーク・カーニー前総裁は自らが率いる「50年にネットゼロ(温室効果ガス排出量を実質ゼロにすること)を実現するグラスゴー金融同盟」の金融資産が130兆ドル(約1京4700兆円)に達したと報告した。リシ・スナク英財務相も、ロンドンは史上初の「ネットゼロ金融センター」になると表明した。

グレタさんが攻撃の矛先を向けるのはCOP26最大の争点であるパリ協定6条(排出削減量の国際取引を行う市場メカニズム)のカーボン・オフセット。どうしても避けられない温室効果ガスの排出について、森林保護、クリーンエネルギー事業などの削減活動によって相殺する仕組みである。グレタさんはしかし「公害をまき散らす利益主義者はオフセットを気候変動ゲームにおける『無料で刑務所から出られるカード』と考えている」と糾弾している。

「グリーンウォッシュを100%非難できない」WTO事務局次長

筆者はまずアロック・シャルマCOP26議長にグレタさんの批判をぶつけてみた。シャルマ議長はこう答えた。

mimura20211107215301.jpg
アロック・シャルマCOP26議長(筆者撮影)

「若者のフラストレーションと怒りは十分に理解する。彼らは私たちに行動を求めている。COP26は行動を起こさなければならない。今回、6条の結論を出すことが重要だ。パリ協定ルールブックの未解決の問題すべてについて結論を出すことが求められている。現在いくつかの進展があるものの、6条についてはまだやるべきことがある。閣僚会議の課題の一つになる。政治的コンセンサスが必要なのは明らかだ。第2週での実現を願っている」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

原油先物は横ばい、米国の相互関税発表控え

ワールド

中国国有の東風汽車と長安汽車が経営統合協議=NYT

ワールド

米政権、「行政ミス」で移民送還 保護資格持つエルサ

ビジネス

AI導入企業、当初の混乱乗り切れば長期的な成功可能
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story