コラム

コロナからの回復で「悪いインフレ」に直撃されるイギリス

2021年10月07日(木)10時51分
ジョンソン英首相

党首演説で支持者の歓声に応えるジョンソン首相(筆者撮影)

[英イングランド北西部マンチェスター発]日銀の異次元緩和が始まって8年半、2%のインフレ目標どころかデフレ再来のリスクがくすぶる日本とは異なり、「インフレ国」イギリスでは悲しいほど簡単にモノの値段が上がる。8月のインフレ率は3.2%で、年末には4%を超えると予測される。

米中央情報局(CIA)のワールド・ファクトブックによると、年齢の中央値は日本が世界2位の48.6歳と高いのに対し、イギリスは50位の40.6歳とまだまだ若い。高齢者が多くなると老後への備えでおカネは投資や消費より貯蓄に回され、どうしてもデフレになりやすい。

もともと需要が旺盛なイギリスでは欧州連合(EU)離脱で移民労働者の供給がストップし、非関税障壁の復活でサプライチェーンも寸断した。そこに加えてコロナ危機からの回復で、落ち込んでいた消費が戻り、需給が逼迫して物価が急上昇している。

英大衆紙デーリー・メールがシンクタンクに調査を依頼した結果、4人家族で年末までに1800ポンド(約27万3500円)も生活費が上昇することが分かった。退職した夫婦の場合、1100ポンド(約16万7200円)以上、低所得者夫婦では900ポンド(約13万6800円)近く余分の負担が強いられる。

危機解除で逆に貧困化

コロナ危機で1年半もの間、我慢を強いられ、出口が見えたと思ったとたん、ガスや電気などエネルギー料金の値上げ、食料品の高騰が家計を襲う。スーパーでは食料品の価格が5%上昇する恐れもある。コロナ経済対策の一時帰休保障や低所得者向け社会保障給付の週20ポンド(約3040円)上乗せも打ち切られるため、蓄えのない低所得者層に不安が広がる。

EU離脱で大型トラック運転手が東欧諸国に戻ったため運転手不足はイギリスで10万人に達し、物流が停滞している。ガソリン価格は1リットル当たり136.1ペンス(約207円)となり、2013年9月以来の高値をつけた。パニック買いでガソリンスタンドには長い列ができ、268ペンス(約407円)でも売り切れる店も出てきた。

需要拡大に加えてロシアが天然ガスの供給を絞り、エネルギー料金も高騰。1500万世帯以上への料金請求額が年平均で140ポンド(約2万1300円)近くも上昇。昨年1年間で中古車価格は1600ポンド(約24万3200円)以上上昇、パブでビール1杯の代金は4ポンド(約608円)に近づき、プロセッコ1本が8ポンド(約1216円)もするようになった。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

SBGとエヌビディア、ロボティクス新興に投資検討 

ワールド

独外相、中国の輸出規制による欧州産業混乱巡る問題解

ビジネス

パラマウント、ワーナーに敵対的買収提案 1株当たり

ワールド

EU、自動車排出量規制の最新提案公表を1週間延期 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    米、ウクライナ支援から「撤退の可能性」──トランプ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story