コラム

英ワクチン戦略に富士フイルム子会社が参加 「戦時体制」で集団免疫獲得に突き進む

2021年03月30日(火)11時22分

イギリスの科学力の源泉

イギリスは欧州最大の犠牲者12万6615人を出し、人口100万人当たりの死者数は1858人と、同72人の日本とは比べ物にならない大きな被害を出している。しかし、失敗から学ぶのがイギリスだ。日本と比較してみて思うことがいくつかある。

(1)科学者の構想力

アストラゼネカ製ワクチンを開発した英名門オックスフォード大学ジェンナー研究所セーラ・ギルバート教授のチームは、中国がコロナウイルスのゲノム情報を公開した昨年1月11日の翌日にはワクチンの設計をほぼ終えていた。

以前からギルバート教授は大手製薬会社とのパートナーシップと資金調達、世界各地で臨床試験や集団予防接種を展開する青写真を描いていた。高い安全性と有効性に加え、原価で販売、冷蔵庫で保管できる扱いやすさからも、アストラゼネカ製ワクチンがパンデミック対策のチャンピオンと言えるだろう。

(2)科学者の行動力とリーダーシップ、組織力

ゲノム解析で英変異株をあぶり出したCOVID-19ゲノム・コンソーシアム(COG-UK)のシャロン・ピーコック議長(微生物学)は昨年3月、「カネと時間の無駄遣い」と嫌味を言われながらも、大学や研究機関、医療機関のコンソーシアムを結成した。

PCR検査の5~10%をゲノム解析してウイルスの変異をリアルタイムで追跡し、ワクチン開発や政策決定に重要なエビデンスを提供している。

日本の科学者には「コロナウイルスは2週間に1度変異する程度で、インフルエンザウイルスやヒト免疫不全ウイルス(HIV)に比べて変異のスピードは遅い」と変異を重視しない人が多かった。

ピーコック議長に尋ねてみると「あなた、考えてもみなさい。少なくとも1億2800万人以上が感染しているのよ。1つ1つの変異スピードが遅くても、それだけ感染していればトータルでは変異はすごい数になる。ウイルスは治療薬やワクチンも回避するので、パンデミックではゲノム追跡は不可欠よ」と教えてくれた。

信じられないことに日本はPCR検査のスケールアップで躓いた。

(3)臨床試験に参加する市民が圧倒的に多い

世界初のインターロイキン6(IL-6)阻害剤として大阪大学と中外製薬により共同開発された「アクテムラ」が臨床試験で重症患者の死亡リスクを約4分の1削減することが証明されたのを発表したのはジョンソン首相だ。

IL-6発見者の一人である大阪大学前総長の平野俊夫・量子科学技術研究開発機構理事長に知らせると「35年前のIL-6発見からその作用機序や病気との関係に関する基礎研究を長年続けてきた成果がこのような形で世界に貢献できることは研究者冥利に尽きる」と感慨深げだった。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英CPI、食品価格データ収集で2月から新手法 若干

ビジネス

米アマゾン、全世界で1.6万人削減 過剰雇用是正と

ビジネス

ドルの基軸通貨としての役割、市場が疑問視も 独当局

ワールド

ロシア軍がキーウ攻撃、2人死亡 オデーサも連夜被害
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化はなぜ不可逆なのか
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 5
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    「恐ろしい...」キリバスの孤島で「体が制御不能」に…
  • 9
    「発生確率100%のパンデミック」専門家が「がん」を…
  • 10
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 8
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 9
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 10
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパ…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story